小学校の全教員がタブレットPCを活用。「堺スタイル」が根づいた理由【後編】
2016年05月26日記事
大阪府堺市の小学校の教育現場で、タブレットPCを活かした授業スタイル「堺スタイル」について、前編ではスタートから現在までに至る経緯や浸透の度合いについて説明してきた。後編では、同じタブレットPCを用いた校務支援システムとの連携、さらに堺スタイルの今後を見据えた新たな展望について、お伝えする。市内全域で拡がるICT機器の活用の先に、どのような未来が待っているのだろうか。
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タブレットを用いた授業の様子。使い方次第で、無駄な時間を減らして、机間指導の充実や子どもたちが発表する時間に充てられる |
校務支援システムと連携しているタブレットPC
忙しい教員の負担を少しでも軽くしながら、もっと子どもたちに寄り添う時間に割けないか。「堺スタイル」で実践されているタブレットPCは、前編でお伝えしてきた授業支援のほかに、校務支援システムとの連携にも活用されている。
児童の名前が書かれた座席表をベースに、出欠確認のほか、子どもたちの日々の学習の様子(発言回数、いい気づきをしたなどのメモ要素、撮影したノートの写真など)を記録することができる。児童の学習の様子について、日時を含めた履歴を記録可能。授業で用いるポータルとは別のサーバで管理した校務支援システムと連携し、タブレットから校務支援システムに遷移すると教室内の大型テレビには表示されない仕様となっている
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堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 浦 嘉太郎氏 |
特に通知表や指導要録について、平成27年(2015年)度から電子化がスタート。平成28年(2016年)度から、小学校では完全にタブレットPCなどによる出席簿の電子化へ移行し、それにあわせて従来の冊子形式の出席簿は廃止した。市内全域で電子化による効率化が進んでいる。
「校務については、事務仕事のウェイトは大きいです。例えば、今までは出席簿に出欠確認をしておいて、その日ごとで別途集計し、学期ごとで通知表への記入のためにも改めて集計し確認。それを、校務システムに転記して管理しています。堺市では転記という形ではなく、直接“子どもの記録”経由でデータが管理される仕組みをつくりました。例えば、授業中にいい発言をした、いい気づきをした子どもがいれば、即座にメモもできる。もちろん、日時を含めて履歴が保存されるので、いつ、どのような発言をしたかなどを簡単に振り返ることができます」(堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 浦 嘉太郎氏)
今まで教務必携にメモをとっていても細かな履歴までを書き込みつづけるのは厳しかったはずだ。まさしくデジタル教務必携といえるこの仕組みであれば、教員の負担の少ない管理が可能となるため、事務仕事の効率が一気に向上。学期ごとの通知表作成まで一気通貫で行えるメリットがあるほか、浮いた時間は授業改善など教員の日ごろの指導研究に割きやすくなる。
こうしたセンシティブなデータのすべては、プライベートクラウドにデータが保存されている。仮にタブレットPCを紛失したとしても、タブレットPCの中身には一切のデータが残っていない。成績をはじめ児童に関する情報全般は、個人情報の塊。そもそも「子どもの記録」のデータはタブレットのデスクトップ上に保存できない仕様にもなっており、ぬかりがない。
「ICT機器を使っていて、“個人情報の扱いで、随分と神経をつかう”となれば、誰も活用してくれません。どの先生が使っても決して神経をつかわせない。個人情報は絶対流出しないような仕組み作りに多くの時間を割いて、緻密に裏側を構築しています」(浦氏)
堺スタイルの今後の展望
「堺スタイル」は、すでに平成28年度から4年目が始動。年々確かな手応えとともに、現場のニーズにあわせてマイナーチェンジを加えながら発展する。最後に、今後の展望をそれぞれの担当者からうかがった。
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堺市教育委員会 教育センター 情報教育グループ 白川 嘉子氏 |
「教員がより授業改善のための時間が確保できるためにも、表裏一体をなす授業支援と校務支援の連携を強化して、今以上に効率化させたい。堺スタイルは授業支援の側面が注目されがちですが、校務支援の側面をもっと充実させた“新堺スタイル”を確立したいですね」(浦氏)
「現状は小学校での導入までで止まっています。ネクストステップとして、近い将来に市内の全中学校でも“堺スタイル”を実現したい。小学校と中学校とでは、同じ義務教育ながら、教科担任制であったりと状況が違います。越えるべきハードルは低くありませんが、取り組んでいきたいです」(白川氏)
“ものの始まり何でも堺”の精神
こうした堺市教育委員会の取り組みは「ものの始まり何でも堺」という言葉にあるとおり、中世以来貿易都市として盛んな堺の土地柄にも関連しているかもしれませんねと、浦氏は語る。
独自なことが好き、という文化に説得力を与える話として印象深かったのが、最後にタブレットに関して、教員からのお問い合わせ内容を聞いたときのことである。ほぼ無風(何もない)というのだ。堺市は、授業を進める主体は教員であり、教員が迷うような、できないようなことは導入しないという考え方を重視。ICT支援員が必要とするようなことはやらないという考えがあり、その実践のあらわれといえる。徹底した教員目線、現場目線が合理的なICT導入と普及につながっている。
「たまに落として画面が割れた、というお問い合わせはあります。これはどうしようもできません。それほど使い方に関するお問い合わせは少ない。そこまでの状態を作って提供することが、私たち教育委員会の役目です」(浦氏)