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BOOK@たった5分で泣く子続出の絵本『ママがおばけになっちゃった』

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現代ビジネス

たった5分で泣く子続出の絵本『ママがおばけになっちゃった』~母の死を通じて「心」を伝えたい 作者・のぶみさんに聞く

のぶみ

全国の母親のあいだで涙なしには読めないと話題になっている絵本『ママがおばけになっちゃった!』。絵本において「死」を、それも「母親の死」を扱うというタブーに切り込んだ同作。作品に込められた気持ちや、家族のこと、絵本作家としてのこれまでの歩みや夢を、作者ののぶみさんに聞きました。

* * *

絵本だからできたこと

この絵本を描こうと思ったキッカケは、僕の奥さんが「この子、私がいなくても生きていけるのかしら?」ってつぶやいたことなんです。

僕にはかんたろう(10歳)という息子と、アンちゃん(7歳)という娘がいるのですが、母親にとって、自分の子ども、とくに男の子というのは本当に心配で心配で仕方がないみたいです。僕もそうですが、男の子って向こう見ずで、バカなことばっかりするから。

母親が死んでしまうという設定は、絵本では珍しいし、究極の設定だと思います。どうしてもマイルドにはならないんです。子どもにとって「人が死んでしまう」というのは、どういうふうに見えるんだろう、と考えたら「おばけ」というキーワードが浮かびました。

「母親が交通事故で死にました」とストレートにいうのも、すごくキツい。アニメでいうといきなり最終回というようなはじまり方です。それで「くるまにぶつかる」としました。ぶつかる、ということはどんなことかは、子どもでも理解できるので。ぶつかる、とおばけ、を組み合わせたら話は通じるなと思った。ただ、くだけすぎてもいけないから、ギリギリのところで表現するしかないんです。

子どもはそもそも「ママが死んでしまう」なんてお話は読みたくないから、前半部分は母親とのふだんのやり取りやギャグを入れて、子どもが「笑う」要素をすごく大事にしました。もちろんそれでも、子どもには強烈なパンチのような威力がありますが。

この絵本は読み聞かせるのに、だいたい5分かかります。その5分で、笑って、泣いてしまう。この両極端の感情を得られるものって、ほかにないと思います。絵本だからこそできたことです。

つらさを体験できることの大切さ

―「感動した」という声をいただく反面、「子どものトラウマになるのが不安」というような感想もいただいています。

逆に、子どものトラウマになったほうがいいと思います。それに、トラウマになるかどうかは、子ども自身が決めることで、大人が決めることじゃないんです。

子どもは母親がいなくなるなんて、想像しないし、したくない。当たり前の存在だと思っているんです。そうすると、ワガママを言って暴れたり、ときには母親を蹴ったり叩いたりする子もいます。でも、それはいかんぞ、と。

この絵本は、下書きの段階で、出会った人や講演会に来た人になんども読み聞かせてから完成しました。1000人くらいの人に読んでいるんです。それで気づいたのですが、子どもは読んでいる途中で「嫌だ! やめろ!」といって泣いたり、「もう二度と読むな!」って逃げ出したりするんです。だけど、こう反応するのは母親が大好きだからなんですね。

そこで「お前、ママがいなくなったらどうするんだ?」と問いかけます。とても嫌なことだけど、想像させることが、すごく大事。そうすることで子どもが、母親のことを大切にしなくちゃいけない、と気づくことができると思います。それに、人はいつか必ず死んでしまう。つらい思いを絵本のなかで発散しておくのも僕は大事だと思います。

―作品に登場する母親が、料理もてきとうで、あまり完璧ではないところも共感を得ているようですね。

『ママがおばけになっちゃった!』に出てくるママはちょっとぽっちゃりしているし、部屋も散らかっています。読んだ人は、「うちの家庭もそうだ!」って安心するのかもしれません。うちの奥さんも、料理や掃除が苦手なんですよ。今日は取材があるからきれいに掃除してくれましたけど。

最近は、コンビニのお弁当も美味しいから、食事をそれで済ませることもあります。それは家事をきちんとしている家庭からすると、批判を受けることかもしれない。でも、その代わり、子どもと一緒にいる時間が長くて、一緒に遊んであげたり、愛情を傾けて、たっぷり与えて育てています。

適度に「いいかげん」だから、子どもがのびのびと育つことができているように感じるんです。それはうちだけではなくて、他の家庭を見ていてもそう思います。子育てってそんなに「完璧に」しなくても大丈夫だって分かってきたんじゃないでしょうか。

作品に込めた思い

いまは、働いている母親も多くて、自身にも家庭の外でやりたいことがあるから、家でもやることがいっぱいだと、てんてこ舞いになる。だから部屋も散らかってしまう。それは仕方がないし、それでいいと思うんです。

子育ては親と子の格闘技みたいですよね。母親はほんとうに大変です。毎日過ごしていると、つい怒りたくなくても子どもを怒ってしまったり、イライラしてしまったりする。だけどこの絵本を読むと、改めてハッとすることがあるんでしょう。

物語は、母親が交通事故に遭い、“おばけ”になって4歳の息子のもとに現れるところから始まります。母親と息子かんたろうの家庭がユーモラスに描かれ、思わず笑ってしまう場面も。後半、「かんたろう、ありがとうね。かんたろうのママで、ママはしあわせでした」と、これから一人で生きていかなければならない息子を励ましながら語りかける言葉に、共感し涙を流す読者が続出。かんたろうも、ママの死を少しずつ受け入れ、自立していきます。  購入はこちら(Amazon)

―「子育てで悩んでいる母親にもおすすめです」という読者のはがきも届いています。

僕は、子どもの自立が「子育ての卒業」だと考えています。このお話の最後は、主人公のかんたろうが「ぼく、がんばってみる。ひとりでやれるよ」って空に向かって言う言葉にしました。本当は母親に会いたいし、意地を張っているだけかもしれませんが、こころのなかで成長しているんです。この絵本には子育ての大切なことも込められているんです。

―ふだん絵本を読んでいない読者にも届いているという実感がありますか?

そうですね、通常はサイン会をすると子ども連れの母親が多いのですが、今回は年配の方や男性もたくさん来てくれました。いろんな人に読まれることで、絵本はこんなにおもしろいものなんだ、ということを知ってもらえたのはよかったです。

講演会に行ったときに、「自分のお母さんを思いだしました」とか「おばあさんが死んだ時のことを思いだしました」という人がたくさんいました。「死んでしまった身内の人がそばにいると感じたことはありますか?」と質問すると、ほとんどの人が、「感じる」って答える。「そうであってほしい」というのもあるんだろうけれど。

落ち込んでいて「あした会社に行きたくないな」と思っているときに、生前お母さんが残した一言を、ふと思いだして元気づけられたりすることもあるかもしれない。そうやって存在を感じたりするのは大人のほうが多いんじゃないでしょうか。

僕の両親は牧師なので、キリスト教の教会で育ちました。なぜか、お葬式が多い教会だったんです、結婚式ではなくて。子どものころ、棺桶のうえに正座で座っている人、つまり、おばけをよく見かけました。死んだ人は自分のお葬式を見ているかもしれない。それに、何か言いたいことがあるんじゃないのかと感じていました。

僕の親友で、マンガ家の風間やんわりさんが亡くなったとき(享年36)、お葬式でやんわりさんがマンガを描いているときの写真をもらいました。やんわりさんは、毎日お酒を飲む人でした。飲むのを自慢しているくらいだったけど、結局肝臓を悪くして死んでしまった。それからずっと「死ぬ前にお酒を控えたらってひとこと言えばよかった」と後悔しているんです。言っても止めなかったかもしれないけれど……

それでいまは、毎日お酒を飲んでますという人に会うと、やんわりさんの話を持ち出して、控えるように言うんです。大切なことは、生きているあいだに、言えるときに言っておかないといけない。そんな思いも、この絵本に込めました。

更生と結婚のきっかけ

じつは、僕自身は母親に一緒に遊んでもらったという記憶があまりないんです。小学1年生のころに一人部屋をもらったら、部屋から出なくなってしまった。一人でブロックを作ったり、ものを作っていたり。テレビも見なかったので、小学校では話題についていけずに、いじめにあって、中学校のころはひきこもりでした。その反動で、高校ではぐれて、チーマーの総長になってしまって、何度も警察に捕まるくらいヤンチャしていました。

―総長って……、やめることができてよかったですね。

まわりがみんな捕まっちゃいましたからね。で、人にやさしくされる経験がなかったし、まわりの女の子も噓つきばっかりだった。それが嫌で、かわいい子に会いたいとか、やさしい女の子がいるんじゃないかという不純な動機で、保育の専門学校に入りました。そこで好きになった子が、「絵本好きだ」って言うんです。だから、「オレ、絵本描いてるぜ!」と噓をついて、帰りに画材を買って、絵本を描いて次の日に見せました。そしたら「おもしろいよ」って言ってくれたんですよ。

いままで人にほめられた経験なんてなかったからすごくうれしくて。それで、毎日絵本を描いてその子に持って行きました。そのうち、「絵本で賞をとったら付き合ってもいいよ」と言ってくれて、すぐに公募ガイドで調べて、五作応募したらそのうちの一作が本当に賞をとったんです。そして、付き合うことになった女の子が、今の奥さんです。

でも、うちの奥さんと初めてデートした日に、警察に捕まったんです。前の日の夜、ある学校のプールに友だちとしのびこんで、それがバレて。「監視カメラにお前が映っているから間違いない。いまから警察に来い」と、家に電話がかかってきた。そのとき奥さんと一緒にいたんです。

そんな大切な日に捕まるわけにはいかないじゃないですか。だから、「オレじゃねえよ、絶対行かねえ」って抵抗しました。「なんで来れないんだ?」と聞かれて、「デート中だから」って。すると「関係あるか! いい加減にしろ」と本気で怒られた。それはそうですよね。

それで仕方なく警察に行ったんですが、そのあいだ家族が必死に彼女を引き止めたそうです。姉がマンガを貸したり、「これ着てみない?」って服をあげたりして。母親も姉も、久しぶりに家に来たのが、金髪じゃない「まともな」女の子だったから、逃がすものかって思ったんだろうね(笑)。結局その日はすぐに釈放されて、よかったです。

―絵本は小さい頃から読んでいたのですか?

バーバパパの絵本が大好きでしたが、きちんと描いたことや習ったことはなかったですね。ただ、「オレには絵本しかないかもしれない」と思って、絵本を描くために図書館で6000冊以上の絵本を読んで勉強して、300作くらいの作品を描いて、出版社に持ち込みを続けました。

最初は編集者に相手にもされなかったですが、2年くらい持ち込みを続けて、ようやく21歳のときにデビューできたんです。最初の『ぼくとなべお』(講談社)はすごく売れて、ベストセラーになりました。でも、それから約7年間ずっと、出した本がぜんぜん売れませんでした。

心に訴えかけるもの

あとから考えると、「こうしたら売れるだろう」とか「自分がこうしたい」ということばかり考えていた気がします。そのときはただただ本当に苦しくて、鬱状態でした。つい「もうダメだ!」と口に出してしまったんです。すると、そばにいた2歳のかんたろうが「何がダメなの?」と言うんです。

その言葉で、「そうか、俺が困っているだけなんだ」と気づいて、「せっかくなら息子を喜ばせるものを描こう」と決めました。それでできたのが70冊目の『しんかんくん うちにくる』(あかね書房)です。息子が大好きな新幹線をモチーフにして、主人公も息子のかんたろうという名前にしました。すると、また人気が出たんです。

このとき、絵本には愛がないと届かないんだ、身近な人が喜ばないものが、他人に評価されるわけないじゃないかと実感しました。

「ぼく、仮面ライダーになる!」シリーズ(講談社)や「おひめさまようちえん」シリーズ(えほんの杜)など、僕の作品には息子と娘がたびたび登場します。

我が家では、かんたろうとアンちゃんに絵本のラフを読み聞かせたとき、「もう一回読んで」って言われなかった作品は、刊行しちゃいけない、っていう掟があります。それなのに、『ママがおばけになっちゃった!』を読んだときは、かんたろうが僕をじっと見て「もう読まなくていい」と言われてしまいました。ショックでしたが、様子を見ていると母親に抱きついていたり、台所でお手伝いをしているんです。

ふだんは、「仮面ライダーに変身できたら、怒ってるママをたおす!」とか言っているのに。「つまらなかった」ではなくて、子どもの心に訴えかけるものがあったのだとわかりました。この絵本は成功なのかな、と思いました。

息子が大人になって、この絵本のことを思いだしたら「うわ、これ嫌いだったなぁ。もう一度読んでみようかな」となるかもしれない。20年、30年越しの「もう一度読んで!」と言われる絵本になるかと思ったら、とても楽しみです。

―その30年後はどのような絵本を描かれているのでしょう。

お母さんたちが子どもに知ってほしいこと、子どもが親に知ってほしいこと、世の中がよくなるようなこと。笑って泣けて、三方良し、みたいな絵本が描けたらいいですね。そこに、アンパンマンやトイ・ストーリーのようなキャラクターが生まれたら、快進撃だと思う。

僕は、いい絵本が描けたときって、生きててよかったなって心から思います。収入的にも未来があると思えますが、なにより、まだ自分が描いていいんだと思えること。人がつまらないと思うものは描きたくないし、自信がなくなって、苦しくて、人に会うのも嫌になる。

いい絵本を描ける、というのは僕にとっての未来なんです。おはなしを作って、人が喜ぶ作品を描くこと。これはきっと僕の「絵本欲」なんです。睡眠欲、食欲、性欲、そして僕は絵本欲がすごく強い。

デビューして16年で、もう160冊も絵本を描いていますがいまだに失敗ばかりです。僕だってはじめから100点を取りたいけれど。

いまは、世界一の絵本作家になることが目標です。日本中で人気になる絵本を描いて、それがアニメ化されたりグッズになったりして得られるお金を、世界の子どもたちのために使いたいです。きれいごとかもしれないけれど、そこに僕の生きている意味があるし、一生絵本を描き続けたいです。

* * *

ママがおばけになっちゃった!
著・のぶみ 1200円

さよならのまえに、かんたろうとおっちょこちょいのママがつたえた、「だいすき」のきもち。おっちょこちょいのママだけど、むすこのかんたろうが、なによりもたいせつ。いいところも、ダメなところも、かぞえきれないくらいの「すき」でいっぱい。

クスリと笑って、ホロッと涙して…対話を通じて、親から子へ、子から親へ、心をつたえる絵本。対象年齢:3歳から。

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読書人の雑誌「本」2015年12月号より



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