ITpro
近鉄がタブレットで多言語放送、訪日外国人急増に対応し約1000両に一斉導入
日経コンピュータ
写真1●近畿日本鉄道(近鉄)の一般車両
(出所:近畿日本鉄道)
近畿日本鉄道(近鉄)は2016年3月に、タブレットを利用した多言語放送システムを導入した。案内用にタブレットを導入する鉄道会社は少なくないが、自動放送に使うのは珍しい。急増する訪日外国人(インバウンド)の乗客への案内を強化するのが狙いだ。
新システムは全ての特急車両と、訪日外国人利用が多い奈良・京都・橿原・天理各線の一般車両(写真1)の合計約1000両で利用する。これらの車両に乗務する車掌向けに、パナソニックの7型Androidタブレット「TOUGHPAD FZ-B2」を採用。約470台を配備。日・英・中・韓の4カ国語の音声データと、独自開発した自動放送アプリを内蔵している(写真2)。
写真2●近鉄が導入した多言語自動放送用タブレットとアプリ
近鉄では一般車両の車内放送は伝統的に車掌の肉声で行ってきた。列車の大幅な遅れや行き先変更などがあっても柔軟に案内できるメリットがある。その半面、外国語で放送するのは難しい。特に奈良・京都などの観光地を通る路線では、車掌が車内巡回するときに外国人からの問い合わせで忙殺されるようになった。
近鉄が重視したのは導入のスピードだ。鉄道本部企画統括部技術管理部(車両)の井上正彦氏は「外国人のお客様が増える勢いを考えると、短期間で対応する必要があった」と説明する。
車両改造避け車掌に端末配布
列車用の自動放送装置を導入するには大掛かりな改造が必要で、列車が動いていない時間帯に順次作業するのに期間を要する。そこで車掌にタブレットを携帯させ、イヤホンジャックから出力した音声に肉声放送の代わりをさせるアイデアに行き着いた。タブレットのイヤホンジャックからの音声出力を、列車の乗務員室にある車内放送用端子に変換するアダプターは独自に製作した(写真3)。
写真3●イヤホンジャックからの音声出力を、列車の乗務員室にある車内放送用端子に変換するアダプター
乗務員室の端子を分岐させてタブレットに接続できるようにする簡易な改造作業を含め、導入作業は2カ月ほどで完了した(写真4)。
写真4●車掌がタブレットを乗務員室に持ち込んで固定したところ
(出所:近畿日本鉄道)
交換可能なバッテリーが要件
写真5●タブレット自動放送導入を担当した(左から)近鉄車両エンジニアリングの梶原隆氏、近畿日本鉄道の井上正彦氏、白石雄介氏
タブレットの機種は、他の鉄道会社で導入実績が多い米アップルの「iPad」シリーズも検討した(関連記事:JR西日本が山陽・北陸新幹線乗務員にiPad約1200台導入、案内力向上へ、トンネルの安全はiPadで守る 東京メトロの一石二鳥作戦)。だが、バッテリーを交換できないことがボトルネックになった。
「車掌は連続乗務時間が長く、丸一日乗務する場合は充電の機会がない」(鉄道本部大阪統括部運輸部運輸課の白石雄介氏=写真5右)。列車内で充電できるようにするには電源設備の改造が必要で、スピード導入が困難になる。バッテリー交換不可の機種では、劣化が進むと丸一日持たなくなるため、交換可能なTOUGHPAD FZ-B2を選定した。
放送の長さは柔軟に判断
車両側の改造を最小限にする一方で、アプリの作り込みには時間をかけた。2015年秋頃に試作版を車掌に使ってもらい、その後2016年3月の運用開始までの間に細かい改良を加えた。
アプリでは、乗務開始時に種別(急行・準急・普通など)と行き先をタップすると、放送内容が停車駅順に表示される。再生ボタンをタップすると放送が始まり、「A駅停車中→A駅発車後→B駅到着前→B駅停車中→……」のように自動的に内容が遷移する。
車掌の意見を反映し、再生ボタンを3つに分けて、放送秒数が一目で分かるようにしたのも特徴だ(写真6)。
写真6●3つある再生ボタン
当初の試作アプリでは、再生ボタンを分けておらず、車掌から「駅間が短いと、次の駅に着くまでの間ずっと放送が流れてしまう」という意見が出た。そこで、再生ボタンを「日本語=21秒」「日・英=48秒」「すべて(日・英・中・韓)=76秒」のように3つに分けた。
「日・英」を流すのが基本ルールである。次の駅に到着するまでの時間が十分あったり、車内巡回時に英語圏以外の外国人が乗車していることに気づいたりしたときは、車掌の判断で「すべて」をタップし、4カ国語の放送を流す。
音声データは適宜追加
現在は定型の放送音声のみを内蔵しており、非定型の放送はこれまで通り車掌が肉声で行う。今後はイベント開催時の臨時停車や観光PR、乗車マナーに関する注意喚起など非定型の音声データも4カ国語で吹き込んでおき、自動放送できるようにすることを検討している。
対象線区には相互直通運転で他社(阪神電気鉄道と京都市営地下鉄)の車両が乗り入れる。他社車両が近鉄線内に乗り入れるときは近鉄の車掌がタブレットを持って乗務するが、現状では多言語放送システムは利用できない。車両側の改造でタブレットを接続できるようにするため、各社と協議しているという。
ITproの最新記事が届くメルマガ登録はこちら
↧
近鉄がタブレットで多言語放送、訪日外国人急増に対応し約1000両に一斉導入
↧