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つくばの民意(上)総合運動公園構想が浮上 巨額事業、市民置き去り

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つくばの民意(上)総合運動公園構想が浮上 巨額事業、市民置き去り



 安全保障関連法をめぐって多くの市民が各地で抗議活動を繰り広げ、「民意」が躍動した二〇一五年。茨城県つくば市では、総合運動公園基本計画の賛否を問う八月の住民投票で反対が八割を占め、計画は白紙撤回された。つくばの運動を振り返り、市民が政治に携わる意味をあらためて考える。 (増井のぞみ)

 「思いが形になった」。八月二日夜、つくば市内の体育館。開票を見守っていた市民グループ「総合運動公園建設の是非を住民投票で問うつくば市民の会」のメンバーが、結果に喜びを爆発させた。共同代表の山本千秋さん(75)は「強引な市政運営に市民がノーを突きつけた」と、勝利をかみしめるように語った。

 市町村合併を繰り返し、人口約二十二万人となったつくば市。小規模なスポーツ施設が分散し、公認記録を計測できる陸上競技場もないとして、市原健一市長(64)は一四年二月、総合運動公園の基本構想案を市議会に提示した。総事業費は三百億円以上。市の年間の一般会計予算約七百億円のほぼ半分となる巨額事業に議員の間からどよめきが起きた。

 市は三月に二十五日間、構想案について市民の意見を聞くパブリックコメントを募集した。ところが、市は実施前の二月、予定地を都市再生機構(UR)から六十六億円で購入する議案を市議会に提出。パブコメ終了を待たず三月十八日、賛成一四、反対一三の一票差で可決された。

 市はその理由を、「URが本年度(一三年度)に土地売却をするとの情報があり、速やかな審議を求めた」という。ただ寄せられた百九十七件の意見には賛成六件、反対二十一件と賛否を明確にしたものに加え、「今ある施設を生かすべき」「国や県が整備すべき規模」といった慎重論もあった。

 反対した宇野信子市議(50)はこう指摘する。「結果を見て決めるという市議もいたのに、市は市民の意見を軽視した」

 さらに、六月市議会の一般質問。市はURからの土地取得を前に、不動産会社から一平方メートルあたり一万六千八百円と、九千百三十円という二つの評価額を出し、実際には高値に近い一万四千五百円で取得したことを明らかにした。安い評価額で取得したケースに比べ、二十四億円以上の高い買い物になった。

 「これで一気に市への不信感が募った」。宇野氏らは土地取得をめぐり、実勢価格の再調査などを求めて住民監査請求をしたが、「実勢価格の高低は単純に決められない」として棄却された。取得経緯の不可解さは残されたままだ。

 宇野氏が所属する市議会会派「つくば・市民ネットワーク」は夏から秋にかけ、一つのことを試みる。構想に反対する署名用紙を返信用封筒つきで各戸に配布。返信してくれた人は多く、手応えをつかんだ。「計画を止めるため、住民投票ができるのではないか」

 <つくば市総合運動公園基本計画> 総合体育館(5000席)、陸上競技場(1万5000席)、屋内プールなどを2015~24年度まで3期に分けて、つくばエクスプレス(TX)つくば駅から約8キロ離れた茨城県つくば市大穂の45.6ヘクタールに整備する計画。総事業費は305億円。賛否を問う住民投票(8月2日投開票、投票率47.30%)は、反対6万3482票、賛成1万5101票で、反対が8割を占めた。結果を受けて、市原健一市長は9月市議会で「白紙撤回」を正式表明し、施設建設について「市民や議会からの具体的な意見や提案をもとに検討を進めていきたい」とした。


つくばの民意(中)1万筆超える署名 噴き出す疑問、うねりに

 「市民が意思表示する機会を設け、大切なことは直接決めるようにしたい」

 茨城県つくば市の元市議、永井悦子さん(62)ら三人が共同代表となり、今年一月末、市民グループ「総合運動公園建設の是非を住民投票で問うつくば市民の会」が発足した。グループには、市議会会派「つくば・市民ネットワーク」や共産党の市議も名を連ねた。

 つくば市は翌二月、総合運動公園基本計画(総事業費三百五億円)を正式に決定。この時に市があらためて募集したパブリックコメントでは、前回を五百件近く上回る六百九十件の意見が寄せられた。

 「総合運動公園整備より教育、福祉を優先すべき」「既存施設の維持や改修をすべき」-。その内容を発表した会見で市原健一市長(64)は「全体から見ると否定的な意見が多かった」と認めつつ、「(批判的な声は)市民の一部の意見」と取り合おうとしなかった。

 市民グループは「意見公募の結果を役立てていない」と反発、計画決定直後から住民投票に向けた署名活動をスタートした。共同代表の一人、元筑波大教授の松本栄次さん(75)は「(いわゆる)迷惑施設への反対と異なり、立派な施設を造ることへの反対運動は、明確な理由を提示しなければ一般市民の支持を得ることはできない。そこに運動の成否がかかっている」と強調した。

 明確な理由とは-。市の将来予測では、人口が二〇三五年の約二十五万人をピークに減少するのに、巨大な事業規模への不安が反映されていないという素朴な疑問だ。永井さんは「(つくば駅から約八キロ離れた交通の便の悪い)この場所、この規模が必要かを問いたい」と通行人に署名を呼び掛けた。

 一カ月かけた署名活動には市民千二百人以上が協力し、有効署名は法定数の三倍以上に当たる一万千三百六十三筆に上った。もう一人の共同代表の山本千秋さん(75)は「思ったより集まった。巨額事業をまともな議論せず通すのはよくないという声が市民に渦巻いている」。

 住民投票に向けた「うねり」を見て、態度を変えた市議が現れた。計画に賛成だった木村修寿市議(61)。「計画や市の進め方が疑問」と反対に回った。三月市議会では公園計画の実施設計費など関連予算が一票差で否決され、計画がストップした。

 木村市議は「巨額の税金を投じる計画はすべての市民生活にかかってくる。住民投票の結果を待つべきだ」と感じていた。

 市原市長が「一部の意見」と切り捨てた「民意」の反転攻勢が始まった。 (増井のぞみ)


つくばの民意(下)「行政任せ」から脱却へ 反対多数で白紙撤回



 住民投票条例制定を求める市民の手続きが進んでいた今年四月、茨城県つくば市内での講演で市原健一市長(64)は総合運動公園の整備の必要性を強調した。

 「ほとんど同じ時期に開催される五十年に一回の機会。何で今、造っちゃいけないのか」。二〇一九年に茨城国体、二〇年に東京五輪を控えている状況を踏まえての発言だった。

 確かに計画を正式決定する際のパブリックコメントでは、「早期整備を望む」「国際大会やイベントを誘致できれば、スポーツの街としてアピールできる」といった声もあった。

 計画に賛否両論ある中、五月市議会で住民投票条例は可決され、八月二日投開票と決まった。市長は「住民投票を行うことに対する必要性や意義を十分に感じることはできない」との考えを示し、投票に向けた地区懇談会で事業の意義を繰り返し説明した。

 だが、反対の声は強まっていった。懇談会で初めて計画を知った研究者の男性(55)は、「集客施設を立地の悪い所に造るのはナンセンス」と憤り、自費で反対を呼び掛けるポケットティッシュ二千個を作り駅前などで配った。男性は反省した。「自分が行政に無関心だったから、計画を進めさせてしまった」

 建設予定地から遠い地区では、主婦高野さち子さん(68)が「待機児童が多く、下水道の値段が高いなど市に対するもともとの不満が爆発した」と自宅前に計画反対のポスターを掲示すると、近所の七軒も同様にポスターを掲げ「反対通り」が誕生。七月末の反対派の市民集会では、市政のあり方に「怒」のメッセージボードが並んだ。

 最終的に投票結果は、有効票の八割が反対。市原市長は「白紙撤回も検討せざるを得ない」とついにスタンスを翻した。

 行政は何を見誤ったのか。市は計画に反対する市議会会派の主導から始まった住民投票運動に「政争の具にしてはいけない」と反発した。しかし、市民が計画の内容を知れば知るほど、反対は増える結果となった。七月に東京の新国立競技場建設計画が白紙撤回されたことも、住民投票への関心を高めた。

 市民団体共同代表の永井悦子さん(62)は「税金の使い方を市民が判断する、住民投票でしか計画を止められなかった。きちんと情報を出せば市民は応えてくれると実感した」と話す。

 住民投票から三カ月たった十一月初旬、地元でプロサッカーチームを運営する「つくばフットボールクラブ」が主催する勉強会が開かれた。総合運動公園の計画に賛成、反対した市民ら約二十人が集まり、市民に本当に必要なスポーツ施設のあり方を意見交換した。月一回ペースで話し合いを重ね、市に提言する計画だ。

 同クラブの石川慎之助代表(36)は語る。「住民投票は、何が市に必要なのかが、行政任せになっていると感じたいい機会だった。これから全国の事例を勉強し、まとめた成果を発信していきたい」。市民自らが考える新たな動きが始まっている。(増井のぞみ)



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