“聞いて”を学ぶ保健室
高瀬
「今日(6日)の舞台は、ある中学校の保健室です。
ここを訪れると、なぜか人には言えない悩みを言えてしまうんだそうです。」
養護教諭 白濱洋子先生
「ほらほら、チャイムなった。」
生徒
「なってない。」
生徒
「(教室に)行きたくない。」
生徒の声に耳を傾けるのは、養護教諭の白濱洋子先生です。
生徒
「(男の)先生が、怖いんです。」
卒業生も訪れます。
卒業生
「先生は、いつもおれらの味方だもんね。」
この保健室、授業では学べない大切なものを教えています。
リポート:藤松翔太郎(おはよう日本)
佐賀県多久市にある中央中学校。
養護教諭 白濱洋子先生
「久しぶりに学校来たから疲れたでしょ。」
白濱先生は、友人関係や家庭でのトラブルなどをきっかけに、自分の教室に通えなくなった生徒をこの保健室で受け入れてきました。
ここには、次々と生徒が訪ねてきます。
生徒
「入っていい。」
この生徒、休み時間の度に訪ねてきていました。
生徒
「もう帰りたい。」
白濱先生は、サボりだとは決めつけません。
悩みを聞いてほしいサインかもしれないからです。
養護教諭 白濱洋子先生
「きのう部活、行った?」
生徒
「行ったけど、帰った。
最後までいたら(あいつに)会う。」
会話から、友人関係にトラブルがあるのではないかと感じました。
生徒
「はあ…。」
養護教諭 白濱洋子先生
「何のため息?」
生徒
「深呼吸だよ。」
養護教諭 白濱洋子先生
「言えばいいよ。」
生徒
「ちっちゃいんだよ、みんな。
何で、そんな小さいことでうだうだなるんだろう。」
些細なひと言やしぐさから、悩みの原因を探り出しているのです。
養護教諭 白濱洋子先生
「給食、食べられた?」
生徒
「少し。」
訪れる生徒は、多い日には40人以上。
生徒が打ち明けた話は、ほかの教師とも共有し、解決に結びつけます。
養護教諭 白濱洋子先生
「“ねえねえ”から本音が言える、そういう存在であるように、肩を張らずにいたい。」
白濱先生が保健室に招き入れるのは、生徒だけではありません。
保護者たちも相談に訪れます。
保護者
「急に(学校に)行かなくなって、何で。
どこで育て方、間違えたんだろうって思って。」
保護者
「“学校でいじめあってる?”と聞いたら、“いいや、いいや”と言ったので。」
家庭訪問をする中で、悩みを抱え込む保護者が数多くいると知り、いつでも相談に来てほしいと伝えてきたのです。
養護教諭 白濱洋子先生
「親が心配するから、なかなか自分から言わないですもんね。」
白濱先生が、生徒だけでなく相談に乗るようになったのは、10年前に起きた出来事がきっかけでした。
白濱先生は、ある生徒から相談を受けます。
毎日「学校に来るな」という手紙が送られているというのです。
白濱先生たち教師は、毎日生徒集会を開き、「いじめは絶対に許さない」と犯人捜しを続けました。
1週間後、白濱先生あてに匿名の手紙が届きます。
いじめをしたという生徒からのものでした。
“誰とでも仲良く、きちんとした相談相手がいるあの子、イライラしました。
自分には、相談に乗ってくれる友達がいません。
本当の友達がほしかった。”
白濱先生は、自分が生徒の悩みに気づけず、ただ責めていたことを、全校生徒の前で謝罪しました。
養護教諭 白濱洋子先生
「もっと困っている子がいたはずなのに、そこを見られてなかったのかもしれないと思うと申し訳なかった。
“あのね”を素直にはける、言葉にできる、“助けて”を言える、そういうのが大事。」
白濱先生は、学校の理解を得ながら、卒業生も受け入れています。
卒業した後、悩みを打ち明ける場所がないと聞いたからです。
恋人の連れ子にいらだってしまう悩み。
卒業生
「福岡の男の子ども、ガチ、イライラする。」
就職の悩み。
卒業生
「従業員とかしたいですね、居酒屋の。」
卒業後も保健室を訪れたことで将来への夢へと踏み出せた人がいます。
山崎直美さん、20歳です。
山崎さんは、2歳の時に両親が離婚。
預けられた祖父母とケンカが絶えず、家出を繰り返しました。
山崎直美さん
「雨降った時とかは、遊具の下で、雨宿りしていた。
(家では)私のことを話しても、分かってくれない人しかいない。」
自立を目指し、保育士になろうと短大に通い始めた時、岐路に立たされます。
妊娠が分かったのです。
夢を諦めて子どもを育てるか、1人で抱え込んでいた時、駆け込んだのが保健室でした。
白濱先生は、山崎さんと祖母の思いを聞き、それぞれに伝えながら、関係を修復してくれました。
山崎直美さん
「自分、1人では育てていけない。
ばあちゃんが見てくれるんだったら、産んでいいんじゃないと言われて、先生に話した話を、うまくおばあちゃんに伝えてくれてたり、気持ちが和らいだというか、楽にはなりました。」
出産後、一時短大を休学しましたが、祖母の助けを借りながら復学。
保育士になる勉強を再開しています。
卒業式。
この春、白濱先生も学校を去ります。
現場を離れ、短大で養護教諭の育成にあたることにしたのです。
教室を周り、これまで伝えてきた言葉を残しました。
養護教諭 白濱洋子先生
「私たち人間は決して強い生き物ではありません。
苦しい時、悲しい時、つらい時は、正直にきついから助けてって、わたしの話を聞いて、自分の弱音を吐いてもいいと思います。」
白濱先生が保健室を去る、この日。
感謝の思いを伝えに卒業生が駆けつけました。
学校を去っても相談には乗ると話しましたが、時間をかけて伝えていきたい思いもあります。
養護教諭 白濱洋子先生
「私以外の人ともつながらなければだめよ、ということも教えていかなければいけない。
いろんな人の考えや言葉を聞いて、自分はどうすればいいだろう、どんな生き方ができるんだろうって考えて欲しい。」
素直な気持ちを言葉にできる相手を増やしてほしい。
養護教諭人生39年分の思いです。
高瀬
「生徒だけでなく、多くのみなさんとしっかりつながってきた白濱先生。
後任の養護教諭も決まって、今は引き継ぎを行っているそうです。」
和久田
「文部科学省は、保健室に子どもたちの心のケアを担う役割を求めています。
子どもたちが本音を打ち明けられる居場所を作り、教師や保護者との橋渡しをしていくことが必要になっています。」
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保健室@“聞いて”を学ぶ保健室 居場所づくり
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