性暴力の実相・第2部 田中嘉寿子・大阪高検検事に聞く
大阪高検の田中嘉寿子検事
「魂の殺人」とも言われる性犯罪の厳罰化に向けた刑法改正議論が、法務相の諮問機関である法制審議会で進められている。「懲役3年以上」となっている強姦(ごうかん)罪の法定刑引き上げなどが主なテーマで、法相への答申を経て、法案に盛り込まれる見込み。多くの性犯罪捜査に立ち会ってきた大阪高検の田中嘉寿子検事(51)は「深い傷を負った被害者感情に法律がようやく追いついてきた」と話す。
現行法は、強姦罪を「3年以上20年以下の懲役」、強姦致死傷罪を「無期または5年以上20年以下の懲役」と規定。最低ラインは強盗罪(懲役5年以上)や強盗致傷罪(同6年以上)より低く、罰則が軽すぎるとの指摘が出ていた。
強姦罪の法定刑引き上げ議論について、「強姦罪の下限が懲役5年に引き上げられると、懲役3年以下の刑で出される執行猶予がなくなる。厳しい処罰を求める被害者感情に応えられる」と評価する。
強姦罪や強制わいせつ罪は、被害者が警察に被害を届け出て処罰を求める「告訴」が必要。被害者の精神的負担は重く、10月に諮問を受けた法制審は11月の部会で、告訴を必要としない「非親告罪」に変更する方向性を打ち出した。
その効果について、被害者の負担軽減のほか、親の子に対する性虐待事件などで「円滑な事件化が可能になる」と指摘。被害者のプライバシーなどを守る配慮が必要となってくるが、「被害者の意向を無視して立件することはあり得ない」と説明する。
法制審では、強姦の被害対象に男性を含めるかや、従来は強制わいせつだった行為を強姦罪に格上げするかなども議論する。「被害者の屈辱感や心の傷は性別や被害の部位が違っても変わらない。より重たい罪で審理されるのは当然だ」と語る。
田中検事によると、捜査関係者や裁判官の中には、恐怖心などから加害者に強く反発できない被害者心理を理解していない人もおり、被害者を責めるような言動で二次被害を与えたケースもあるという。「二次被害の防止に向け、捜査関係者の研修充実や、裁判官への啓発も求められる」と力を込めた。
◆田中嘉寿子(たなか・かずこ) 1991年に検事となる。東京や福岡、仙台地検を経て大阪地検総務部副部長、同刑事部副部長を歴任。数多くの性犯罪や児童虐待事件の捜査に携わる。2014年には大阪高検検事として「性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック」を出版。法科大学院への派遣教授を務め、捜査関係者や性犯罪被害者支援団体向けの研修も行う。
=2015/11/10付 西日本新聞朝刊=
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