Quantcast
Channel: 堺 だいすき ブログ(blog)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 17011

精緻に分析すれば、日本はまだデフレである

$
0
0

精緻に分析すれば、日本はまだデフレである

末廣 徹:みずほ証券シニアマーケットエコノミスト
黒田東彦日本銀行総裁は「物価の基調は着実に改善している」と繰り返すが・・・・・・(撮影:今井康一)

中央銀行の金融政策は「物価の安定」を目指しているが、ここでいう「物価」は国内におけるすべての主体(家計や企業など)が直面する「一般物価」を指している。もっとも、「一般物価」の定義は難しいため、日本銀行がそうであるように、通常は物価目標において、「消費者物価」を指標にしている。日銀は2013年1月に「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定めた。

しかし、最近では「消費者物価」においても様々な関連指標(定義)が乱立しており、何が重要なのかが分かりにくくなっている。

総務省が発表している「消費者物価指数(以下CPI)」では、以前より消費者物価全体の動きを示す「総合指数」と、生鮮食品を除いた「コア」、食料〈酒類を除く〉・エネルギーを除いた「欧米型コア(コアコア)」が参照されてきた。

日銀版CPIコアコアは円安が押し上げ

これに加えて日銀は「消費者物価の基調的な変動」を示す指標として、『金融経済月報』において2015年7月から、「除く生鮮食品・エネルギー」(以下、日銀版CPIコアコア指数)の掲載を開始。以来、この指標も注目度が高まってきた。日銀はこの指標について、変動の大きな品目を上下10%ずつ控除した「刈込平均値」も公表している。

原油価格や為替相場の変動が「消費者物価」の動きを攪乱する中、様々な工夫を凝らして「消費者物価の基調的な変動」を模索している状況だ。ただし、現状ではいずれの指標も「消費者物価の基調的な変動」を見る上では一長一短である。

「総合」や「コア」は国際商品市況で決まるエネルギー価格の影響を、ガソリン価格などを通じて直接的に受けてしまう。「欧米型コア(コアコア)」や「日銀版CPIコアコア」はエネルギー価格の影響は取り除くことができている可能性が高いものの、為替相場の影響は排除しきれていない。

アベノミクス以降の日銀版CPIコアコアは2013年前半から2013年末にかけてと、2015年初から2015年央にかけての2段階で伸び率が加速しているが、これは円安が2段階で進んだことと相似形である。

両者の動きを比較すると、日銀版CPIコアコアはドル円から9カ月程度のラグを持って動いており、その相関係数は80%を超える。すでに円安基調は一服していることから、そろそろ日銀版CPIコアコアも頭打ちとなりそうだ。

為替レートの影響を排除することができていない以上、「消費者物価の基調的な変動」を示す指標としては完ぺきなものとはいえないだろう。

主成分分析の手法を使って新指数を作成

そこで筆者は、より包括的に原油価格や為替相場といった外生要因を排除する手法を開発し、新しいCPIのコア指数を作成した(以下、「みずほ証券版CPIコアコア指数」)。具体的には「主成分分析」の手法を用いて、(1)原油価格の変動を含む輸入物価による変動ファクターと、(2)為替相場による変動ファクターを統計的に排除することで、外生要因を取り除いていく。

まず初めに統計分析手法である「主成分分析」の狙いを簡単に説明したい。「主成分分析」の主な目的は、複数ある変数から新たな総合指標を作り出すことにある。この総合指標を「主成分」と呼ぶ。

例えば、小学校のクラスで国語と算数のテストを行ったときに、両科目の得点から各生徒の「総合的な理解度」を抽出するときに用いられる。両科目の得点を眺めているだけでは、国語は得意だが、算数が苦手な生徒、両科目が平均的に得意な生徒などさまざまで比較ができないが、総合指標である「主成分」の値を比較すれば、両科目の得点を考慮した「総合的な理解度」を使って各生徒の比較ができるようになる。

この主成分は、単純な2科目の合計値や平均値よりも統計的にもっともらしい指標である。ただし、「主成分」はあくまでも統計的にもっともらしいというだけで、定性的な説明は後から考えなくてはならない。つまり、抽出された「主成分」を見ながら、各生徒の「総合的な理解度」はどのように形成されてきたのかを考察するというプロセスが重要となる。

「みずほ証券版CPIコアコア指数」の作成に際しては、この「主成分分析」をCPIの49種の中分類に対して行った。国語と算数の得点にあたるものが、「食品」や「耐久財」などの個別分類の物価変動である。

バラバラに動いているさまざまな品目の価格情報から、総合的な変動である「主成分」を抽出する。そして、その「主成分」がどのような要因で動いているのかを考察する。

CPIの35%は輸入物価(円建て)に連動

2000年以降のCPIの中分類に対して「主成分分析」を行うと、CPIの全体を総合的に説明するファクターのうち一番大きなものである第1主成分は「輸入物価(円建て)」と強く連動していることが分かった。

日本は原材料の輸入が多いことから「エネルギー価格」を中心とした国際商品市況の影響を受けやすいようだ。また、「円建て」の輸入物価と連動性が高いことから「為替」の影響を含んでいる。つまり、第1主成分は消費者物価指数の全体の変動のうち「輸入物価(円建て)を反映するファクター」のようだ。このファクターはCPI全体の動きの約35%を説明する。

21%は為替の波及効果、15%は賃金で動く

同様に、第2主成分(第1主成分で説明できない動きに対して主成分分析を行ったもの)は、ドル円レート(前年同月比)に9カ月遅れて連動性がみられた。

9カ月のラグがあることから、第1主成分では説明できない「時間をかけて円安(円高)が国内物価に波及する効果」が抽出されたのだろう。第2主成分は「ラグを持って波及する為替レートを反映するファクター」のようだ。このファクターは消費者物価指数全体の動きの約21%を説明する。

円安の効果が9カ月程度で現れるという結果は前述の日銀版CPIコアコアとドル円の相関関係と同じである。とすれば、2014年末から2015年初めに定着した1ドル=120円前後の円安の効果はそろそろなくなってくる可能性が高そうだ。

なお、第3主成分は12カ月のラグを持った毎月勤労統計の現金給与総額(前年同月比)と連動性が高かった。これは国内要因と整理することができるため、外生要因の影響を探ることが目的である今回は分析対象とはしない。なお、このファクターは消費者物価指数全体の動きの約15%を説明する。

以上から、消費者物価指数全体の約56%(35%+21%)は、輸入物価や為替相場(ラグを含む)の変動という外生要因で説明できることが分かった。

そして、これら第1主成分と第2主成分の2つのファクターの影響を除いた「残り」が、国内における需給を反映した「消費者物価の基調的な変動」と言えるだろう。この「残り」の部分にあたるものを「みずほ証券版CPIコアコア指数」とした。

2013年以降も物価の基調はデフレ

「みずほ証券版CPIコアコア指数」について、その動きをほかの指数と比較してみると、ポイントは以下の2つに集約される。

(1)2013年以降の円安局面において、安定的に前年比マイナス0.5%程度のデフレ状態が続いている、(2)ただし、2012年まではおおむねほかの指標と似たような動きをしていた

足元で、ほかのコア指標が上振れていることは明らかである。

「みずほ証券版CPIコアコア指数」は、一部の品目を取り除いて算出した「欧米型コア指数」や「日銀版CPIコアコア指数」と異なり、全ての品目に対する輸入物価や為替の影響を取り除いたものであるため、より包括的なコア指数である。

これが「基調的な変動」を示しているとすれば、アベノミクスが開始されて以降もデフレ基調はまったく変わっていないことになる。

ちなみに、内閣府や日銀が試算するGDPギャップと日銀版CPIコアコア指数、みずほ証券版CPIコアコア指数を比較すると、両者とも2012年までは12カ月程度遅れる形でGDPギャップに連動している。ただし、2013年以降の動きを見ると、日銀版はGDPギャップの動きから外れていき、みずほ証券版のほうがGDPギャップに近い動きをしている。

GDPギャップとの連動性の高さは、足元の経済の実力を反映している一つの証左といえよう。今後もみずほ証券版CPIコアコア指数を用いて基調的なインフレ動向をウォッチしていきたい。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 17011

Latest Images

Trending Articles

<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>