自閉症の原因は?遺伝する確率はあるの?
発達障害のキホン
自閉症とは?
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自閉症は先天的な発達障害の一つで、社会性と対人関係の障害、コミュニケーションや言葉の発達の遅れ、行動や興味の偏りの3つの特徴があると言われています。
世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)では広汎性発達障害というカテゴリーのもと、自閉症という障害名が使われています。一方、2013年に発行されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版)において自閉症という障害名は廃止され、自閉症スペクトラムの障害名のもとに統合されました。
そのため、今後自閉症という名称での診断は少なくなることが予想されますが、自閉症という名称は現在も一般的であり、また発達障害者支援法などの法律や文部科学省・厚生労働省などでも使用されています。以上をふまえ本記事では、下記の文部科学省の定義で示されるような概念における「自閉症」についてご紹介します。
自閉症とは、3歳位までに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、②言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008/001.htm
出典 : https://h-navi.jp/
自閉症とは?主な症状と具体的な特徴
自閉症の発現時期は分かっているの?
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自閉症は生まれ持った脳機能障害により発現すると考えられています。しかし、その特徴は生まれてすぐに見られないことがほとんどです。脳や心身の成長と共に何らかの症状が出始め、3歳頃までに自閉症の症状が顕著になると言われています。
家族が気づかなくても、保育園や幼稚園の先生に指摘されたり、乳幼児健診時に専門機関への受診をすすめられるケースもあります。ですが、周りや本人が症状に気づかない場合など、大人になるまで見過ごされている方もいるようです。
つまり、自閉症を引き起こす脳機能障害の素因は先天的に発現しますが、自閉症の症状や特性は発達段階で現れ、それに気づいて初めて診断につながるのです。
成長過程で、もしかしたら自閉症なのかも?と疑いを感じたら、身近な専門機関で相談し、必要ならば診断を受けることをおすすめします。相談ができる専門機関とは、児童の場合、各市区町村の保健センター、子育て支援センター、児童発達支援事業所等をさします。大人の場合は発達障害者支援センター、障害者・生活支援センター、相談支援事業所などへ行ってみましょう。相談してみて障害の疑いがある場合には専門医を紹介してもらえます。
自閉症の原因は?
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様々な議論が交わされていますが、自閉症の原因はいまだ特定されていません。しかし、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられており、親のしつけや愛情不足が直接の原因ではないことがわかっています。
脳機能障害を引き起こすメカニズムとして、遺伝的な要因の関与の可能性が高いと推測されています。その先天的な遺伝要因にさまざまな環境的な要因が重なり影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が有力です。
関連する遺伝子や環境要因については、現在さまざまな研究が進められていますが、具体的にはまだ解明されていません。また複数の要因や組み合わせが存在すると考えられます。それらがさまざまな道筋をたどって、その人の自閉症の特性となって現れると言われているのです。そのため全ての人にあてはまる唯一の原因はないとも考えられています。
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参考書籍:鷲見聡/著『発達障害の謎を解く』(日本評論社,2015)
http://www.amazon.co.jp/dp/4750333808/
参考書籍:服部 陵子/著『Q&A家族のための自閉症ガイドブック―専門医による診断・特性理解・支援の相談室』明石書店,2011年/刊
自閉症は親から子どもへ遺伝するの?
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自閉症に関しては、双生児研究や家族間での一致率に関する研究が活発に行われ、現段階で医学的な結論には至っていませんが、自閉症の発現に何らかの遺伝的要因が関係している可能性が高いと考えられます。
一卵性双生児のうちの1人が自閉症の場合に、もう1人も自閉症である割合は、報告によって差がありますが91~96%、二卵性では0~24%と、大きな開きがあります。兄弟姉妹では、1人が自閉症と診断された場合その兄弟姉妹が自閉症である割合は一般よりも高く、5~10%くらいと言われています。
(服部 陵子/著『Q&A家族のための自閉症ガイドブック―専門医による診断・特性理解・支援の相談室』明石書店,2011年/刊 P.19より引用)
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遺伝子配列が同じ一卵性双生児で一致率が高いことが報告されていることから、やはり遺伝的要因の関与が推測されます。一方で、遺伝子配列が一致していても100%発現するのではないこともわかりました。これは遺伝要因と環境要因の相互影響説の根拠の一つとも言われています。
また、これまでの研究で自閉症は単一の遺伝子が原因で起こる「メンデル型遺伝疾患」と呼ばれるタイプではなく、複数の遺伝子の変化が影響して起こる「多因子遺伝疾患」であるとも考えられています。
つまり親の遺伝子が単純に子どもに遺伝して自閉症になるわけではないということです。自閉症の遺伝要因は原因の一部にすぎず、よって、親が「自閉症」だからといって、子どもにも100%同症候群が遺伝するとは限らないのです。自閉症のある親から、自閉症ではない子どもが生まれることもあれば、両親とも定型発達の場合でも自閉症のある子どもが生まれることもあるのです。
遺伝する正確な確率については、現在のところ不明です。親が自閉症だった場合で子どもも自閉症である確率も、調査によって数値がまちまちで確かな結果は出ていません。このことも、遺伝要因と環境要因の相互影響が複雑で、偶然性に左右される部分が多いことを示唆していると言えるでしょう。
自閉症を検査する方法はあるの?
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現在の医学では妊娠中の羊水検査、血液検査、エコー写真などの出生前診断で判明することはありません。また、出生後も遺伝子検査や血液検査といった生理学的な検査では診断できません。これは自閉症の原因が完全には解明されておらず、またその原因も複雑で単一ではないと考えられるためです。生理学的な検査方法を確立するのはかなり難しいとも言われています。
自閉症の人の多くが幼児の頃から12歳ぐらいの間に何らかの症状をきっかけに専門機関を受診し、医師によって自閉症だと診断されます。診断は問診と心理検査・知能検査などの様々な検査を総合的に判断して行われます。その他MRIを使い脳の器質的な疾病がないかを確認する場合もあります。検査や診察は一度ではなく、何度か行われたうえで慎重に診断が下されることが多いです。
自閉症の治療法はあるの?
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自閉症を根本的に治す薬や手術などの医療的な治療法は開発されていないため完治することはありません。ですが療育や環境調整を通して接し方や伝え方を工夫したり、二次障害や合併症の症状を緩和させる治療を受けることで、日常生活における本人の生きづらさを解消することができます。
幼稚園や保育園、小学校に通うようになると、コミュニケーション能力が不足していることから、どうしても自分の思いをうまく伝えられなかったり、周りから孤立してしまったりと何かと不便を感じることがあると思います。上手にコミュニケーションをはかるためにも、日頃から自分の思いをどう伝えたら理解されるか、パニックにならないように落ち着いて生活するための訓練が必要になります。
また、自閉症の子がのびのび生活するためには、周囲の理解と協力が必要不可欠です。パパ・ママはまず本人の性格や特性をよく理解し、根気よく周囲に説明をし続け過ごしやすい環境を整えてあげましょう。
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自閉症は手術や薬などの医学的な方法で完治することはできません。しかし、小さいうちから療育センターに通うことで、精神的・身体的機能に対してある程度の効果が表れるようです。療育とは、以下のように定義されています。
療育とは医療、訓練、教育、福社などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r055/r055_018.html
療育はできるだけ早く始めると効果が出やすいと言われています。療育センターに通い、お子さんの良い部分を伸ばしましょう。具体的な自閉症の療育方法は色々ありますが、一般的には「言葉や行動を理解しやすくする」「コミュニケーションをとる練習」の2つに大きく分かれます。
■言葉や行動を理解しやすくする
自閉症の特徴の1つとして言葉を理解するのが難しいというものがあります。この特徴を減らすために、言葉で説明するのと同時に、絵などの視覚的な手だてをつかって説明します。例えば歯磨きをして欲しい時は、「歯を磨きます」と短い言葉で説明し、歯磨きをしている絵を見せます。聴覚と視覚を同時に使うことで、自閉症の人は意味を理解しやすくなります。
一度理解してしまうと、同じ時間に同じことをするのは得意なので、問題なく歯磨きができるようになります。この療育方法を繰り返すことによって、できることが増えていきます。
■コミュニケーションをとる練習
コミュニケーションをとる練習も効果的です。挨拶を繰り返す練習をしたり、幼稚園や小学校についたら先生のところに行き昨日のできごとを話したり、人と関わる練習をしていきます。
慣れてきたら簡単な仕事を担当してもらいます。仕事をすると褒めてもらえる、喜んでもらえるなど、色々な感情も同時に感じてもらい、本人の情緒が成長できるように練習を繰り返します。
自閉症はまだ原因がはっきりしていない先天性の脳機能障害です。そのため現在の医療で完治させることは難しく、治すための薬も開発されていません。
薬が処方されることがありますが、これは自閉症そのものを治すための薬ではなく、不安障害を抑える薬や、パニックを抑える薬など、自閉症の症状を緩和するためのものです。その他にも医師によって個人に合った薬を処方されますので、信頼できる医師に困っている症状を相談し、服薬で改善されるのか、それとも療育方法で改善できるのかを確認しましょう。
薬物療法は医師の指示のもと用法や用量を守って服用していかなくてはいけません。薬に頼り切って多用するのは避けましょう。薬の服用により特徴が緩和されている時には療育や教育の効果も上がりやすくなるとも言われています。
自閉症の原因は一つではありません
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自閉症の原因はいまだわかっておらず、現在研究されています。自閉症の原因は一つではなく、人それぞれだという説が主流となりつつあります。また、母親の愛情不足やコミニュケーション不足が原因で発現はしないことははっきりしています。もし、身近な家族が自閉症と診断されても、家族の責任ではないのです。
自閉症の原因やメカニズムが解明されれば、今後治療法なども発見される可能性もあるかもしれません。そのため多くの研究者が様々な研究を進めています。
ですが、個々のケースにとって自閉症の原因をあれこれと考え悩むことは、子どもの成長や支援にとってはあまり有益ではないかもしれません。それよりも適切な対応法を周りが学ぶことによって、困ったことがあっても対処法も分かるようになり、本人にとって過ごしやすい環境を作ることができます。周りの人が自閉症と本人への理解を持ち、本人の気持ちに寄り添いながら、本人と一緒に最適な対応がとれるように学び、心がけましょう。