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先進国の大貧困と空き家の2020年問題

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現代ビジネス

先進国の大貧困と空き家の2020年問題~“一億総当事者”時代に必読の3冊 リレー読書日記・熊谷達也

〔PHOTO〕gettyimages

パリの同時多発テロのニュースに、どうしたらこの世界から戦争やテロを無くすことができるのだろうと憂いつつも、ごく身近な問題で頭を悩ますことに殆どの時間を費やしているのが私たちである。たとえば昨日の私の1日はこんな具合だ。

グループホームに入所している父親の3ヵ月に1度の通院に付き添うために、早朝車で仙台を発ち(片道二時間はかかる)、その足で別のグループホームに入所している母に面会に行き、2人のマイナンバーや介護保険の手続きのあれこれで総合支所(合併前は町役場)に立ち寄り、最後に実家の状態をチェックして仙台の自宅へ戻ると、やれやれ、すっかり夜になっていた。そんな日々での、近い将来の悩みの種は、実質的に空き家状態になっている実家を、この先どうするか・・・・・・。

実は、すでに我が家では、もう一軒空き家を抱えている。函館にある妻の実家だ。どちらの家も売却は無理だろう。建物自体がかなり傷んできているし、そもそも買い手がつくような立地条件にない。したがって、たとえアパートに建て替えたとしても、入居者は絶対に見込めないと自信を持って言える(自信を持ってどうするのだ!)。

さらには、街場ではないので、コインパーキングにするのも無理。いったいこの先どうしたらよいのだと悩みつつ、問題の先送りをしている日々である。

おそらく、私と同じような悩みを抱えている人は、日本全国に沢山いるに違いない。と思っていたら、まさしくその通りであることを明確にしてくれたのが『空き家問題―1000万戸の衝撃』だ。

サブタイトルにあるように、東京オリンピックが開催される2020年には、この国は1千万戸もの空き家を抱えることになるらしい。しかも、過疎が進む田舎に限った話ではなく、むしろ、東京や大阪などの大都市圏で爆発的に空き家が増える見込みだというのだから、事態はいっそう深刻だ。

不動産に対する以前の価値観(所有していれば資産価値が増すという一種の不動産神話)がとうの昔に崩壊しているにもかかわらず、固定資産税や相続税などの税制が現実に対応できておらず、この国の仕組み自体に問題があるのだという本書での指摘は、非常にわかりやすく、そして鋭い。

孤独と格差が世界を蝕む

今後の人口減少社会が空き家問題をいっそう加速させるだろうことは想像に難くないが、いつのころからか頻繁にニュースで耳にするようになった、ひとり暮らしのお年寄りの孤立死(孤独死)も、この問題と表裏一体であるのは確かだろう。

いわゆる後期高齢者が急速に増えていくこれからの社会で、お年寄りの貧困と孤立問題がいかに深刻なものになっていくか、いや、すでにその深刻さは相当な段階に来ていると、現状を明らかにしているのが『老人に冷たい国・日本 「貧困と社会的孤立」の現実』である。論旨のベースになっているのは、膨大な量の実態調査とデータの分析であり、その信頼度は高い。

本書が明らかにしている、経済的貧困がもたらす高齢者の社会的孤立の実態は、もはや他人事ではない。

本書では、聞き取り調査の際に収集された、社会的孤立状態にあるお年寄りの日記やインタビューでの生の声が、無機的なデータを補完するかのように数多く紹介されている。

そこには、ともすれば統計数字に埋もれてしまいがちな、ひとりひとりの人間が生きてきた歴史が凝縮されていて、読んでいて身につまされた。

様々な要因が重なって高齢者の社会的孤立が生み出されているのは確かだが、2000年以降の介護保険制度を中心とした生活保障関連制度の変化が大きな原因のひとつになっている、つまり、この国の政策が貧困と孤立を作り出しているという筆者の指摘を、私たちは注意深く記憶に留めておく必要があるだろう。

空き家問題や高齢者の孤立問題の顕在化と時を同じくして、富裕層と貧困層の二極化が急速に進み始めている実感が私にもあるのだが、その深刻さが日本の比ではないのが、戦後の我が国が一貫して目指すべき指標としてきたアメリカのようだ。

まだまだ私たちの記憶に新しい2008年のリーマン・ショックを引き起こしたサブプライムローン問題を最初の切り口に、アメリカの貧困層の実態をつまびらかにしているのが『ルポ 貧困大国アメリカ』だ。アメリカで富裕層と貧困層の二極化が進んでいることは、たまにニュースにも取り上げられるので、ある程度知っているつもりでいたが、ここまで深刻なものになっているとはさすがに思っていなかった。

貧困であるがゆえに肥満になるという逆説的な状況。ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズに壊滅的な被害をもたらしたのは、自然災害というよりは貧困層を切り捨てる人災の側面が強かったこと。一度の病気で貧困層に転落する人々を作り出す背景。そうした数々の実態の行きつく先はどこか。

最終章で取り上げられているのが、世界中のワーキングプアが「民営化された戦争」を支えているという、いかにもアメリカらしい寒々とした現実である。

くまがい・たつや/'58年、宮城県生まれ。東京電機大学理工学部卒業。'97年『ウエンカムイの爪』で小説すばる新人賞を受賞。'00年『漂泊の牙』で新田次郎文学賞、'04年『邂逅の森』で山本周五郎賞、直木賞を受賞した。『リアスの子』『微睡みの海』など著書多数

『週刊現代」2015年12月12日号より

※この欄は堀川惠子、熊谷達也、生島淳各氏によるリレー連載です。


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