本日12月16日、最高裁において歴史的な「憲法判断」が出ます。 それは「夫婦は同一の姓(氏)でなければならない」とする民法750条と、「女性のみ離婚後6カ月の再婚禁止期間を設ける」とする民法733条の規定が、違憲かどうかを問うものです。 このうち「750条(夫婦同一姓)」については争点が明確ですが、「733条(再婚禁止期間)」についてはわかりづらく、私のところに取材に来る記者の方さえ誤解をしているケースもあります。 私がこの「733条問題」に詳しいのは、私自身の子どもがこの「733条」と密接に関わる「民法772条~いわゆる離婚後300日問題」によって無戸籍状態となり、国を相手に裁判を起こして勝訴した経験があるためです。私の勝訴はこの問題では初めてで、その後の「判例」となっています。また政治家として、ずっと「無戸籍児」問題に携わってきました。 今回の「憲法判断」にまつわる基礎知識と読みどころを、いっきに解説しましょう。 Q1 民法733条は、そもそも何が規定されているのですか? 民法733条では「女性は離婚や結婚取り消しから6カ月を経た後でなければ再婚できない」と規定されています。つまり、「女性だけが離婚してから6カ月間は再婚ができない」ということです。一方、男性は離婚した即日、再婚ができます。 Q2 何が争われているのですか? この規定が女性にだけ設けられているのは「男女平等」を定めた憲法14条に反するのではないか、というのが今回の争点です。岡山県の30代女性が2011年8月、国に165万円の損害賠償を求めて提訴しました。一、二審判決で請求が退けられましたが、上告。その最高裁判断が本日12月16日に出されるのです。 Q3 なぜ女性だけ再婚禁止期間があるのですか? この規定が設けられているのは、「女性が離婚してすぐに再婚し、子どもができた場合、父親が誰かわからなくなるのを防ぐため」だとされています。 この733条には関連する重要な法律があります。それは民法772条です。 つまり、 ということで、「離婚後301日以降に生まれれば前夫の子どもではない」「婚姻後200日目までに生まれた子どもは現夫の子ではない」ことを意味します。 Q4 最近ニュースになった俳優の大沢樹生さんのケースも、これに該当しますか? まさに、そのとおりです。俳優の大沢樹生さんのお子さんの父親をめぐっての裁判が大きな話題になりましたが、この場合もこの規定で「200日」に生まれたため、「大沢さんのお子さんではない」という判断になりました。では、もし「201日」に生まれていたら? 仮にDNA鑑定が0%だったとしても、大沢さんの子どもとなったはずです。 Q5 なぜ再婚禁止期間は6カ月なんですか? 離婚後、すぐに再婚してしまうと、「嫡出推定」が重なってしまいます。これを避けるために6カ月という期間が設けられました。 ちなみに300日という前夫の嫡出推定期間ですが、現在では「妊娠期間は1週7日、40週=妊娠期間280日前後で生まれる」とわかっていますが、この法律ができたのは明治時代。「300日もあれば間違いないだろう」という解釈でこの数字が設けられました。 Q6 そもそも「嫡出推定」って何ですか? 嫡出推定とは「生まれた子どもの父親が誰か、とりあえず決める」ということです。 「扶養義務を負う父親を早期に決めて、親子関係を安定させることが子どもの利益につながる」という考えに基づいています。 ちなみにこの法律は1898(明治31)年にフランス民法をお手本に定められたものです。 DNA鑑定のない時代は、「生まれた子どもの父親は誰か」ということが客観的に証明できませんでしたから、フランスの医師たちの意見を聞いて大体の妊娠周期をもとにしながら、「父親の推定」のルールを決めたのです。 Q7 何が問題?→その1「子どもが無戸籍になる可能性」 一番の問題は、この民法733条の再婚禁止期間、および772条の嫡出推定があるがために、「子どもたちが無戸籍になる可能性がある」ということです。 たとえば、私の場合は、前夫と別居してから離婚が成立するまでに何年もかかりました。やっと離婚が成立し、その後、現夫と再婚。現夫と婚姻してから子どもを妊娠しましたが、この子が早産で、265日で生まれてしまいました。 すでに離婚しているにもかかわらず、「離婚後300日以内に生まれたために、『現夫の子』ではなく『前夫の子』として戸籍を作らなければならない」と言われたのです。 きちんと結婚して、間違いなく現夫との間の子どもを妊娠したのに「前夫の子ども」にされてしまうのです。 おかしいですよね? つまり日本の法律では「離婚後も女性たちは前夫の性的拘束下におかれる」ということが是認されている、ということでもあります。 このことを訴え、私の場合は最終的に裁判で勝訴しましたが、子どもはその間は無戸籍でした(その後、法務省は「民事局長通達」を出し、「離婚後に妊娠した」という医師の証明書があれば、離婚後、300日を経ていなくても、現夫の子どもとして出生届を出せると「ルール変更」をしました)。 Q8 他に問題は?→その2「誰の子でもない『80日間』の空白ができてしまう」 772条2項では「結婚した日から200日を経過したのちに生まれた子は、結婚中に妊娠したものと推定する」となっています。 つまり、結婚してから200日以降に生まれた子どもは夫の子として推定されるが、それ以前に生まれた場合は、本当に夫の子だとしても、法律上の父親とは認められないということです。 「じゃあ、できちゃった婚はどうなるの?」と思った人は鋭い! 現状では出生届の父親欄に後夫を書いた出生届を出すことによって「認知準正」といって、夫の子どもとして認められることになっています。俳優の大沢樹生さんもこの例でした。 ともかくこの200日とか180日とか300日とかいう数字が矛盾を生んでしまうのです。離婚後、300日以内に生まれた子供は「前夫の子」として推定されることを思い出してみてください。これを計算式にすると となります。この80日間は、前夫の嫡出推定も現夫の嫡出推定も及ばない「空白」の期間になってしまっているのです。 「扶養義務を負う父親を早期に決めて親子関係を安定させることが子の利益につながる」から最も遠いところです。 Q9 結局どんな判断が出そうですか? 「女性だけに再婚禁止を課している」という男女差別の問題、また民法上でも「80日間の齟齬が出ている」との観点から「違憲判断」が出される見通しです。 Q10 民法733条はどう改正すればいいと思いますか? この問題に関して、私は以前から、「明治生まれの733条は現代に通用しない」「DNA鑑定のあるこの時代に、733条はまったく意味をなしていない」と常々訴えてきました。本来ははるか昔に、現状に即したものに改正されるべきものだったのです。 ちなみに欧米諸国でもかつてはこうした規定がありましたが、時代に合わせて撤廃・改正をしています。 では、どう改正すればいいのか? まず時代遅れの733条は完全撤廃するべきだと思います。なぜなら、離婚時に妊娠していない99.8%の女性たちにとって、婚姻の自由を奪われているからです。 また100日短縮案も無意味です。その計算式のもととなる300日、200日ルールについては法務省自らが否定する「民事局長通達」を出していること、また、推定が重なった場合は調停・裁判など司法の場で解決します。今までもそうだったし、これからもそう。敢えて法律を作る必要はまったくありません。 772条については、2項を廃止し、1項を「妊娠または出産」とすること、そうすることでスムーズに現夫との子供として出生届を出すことができ、無戸籍の解消にもつながります。 もし前夫の子どもかもしれないというのなら「認知調停」で決着をつければいいのです。 以上の解説と照らし合わせながら、本日12月16日の最高裁判断をチェックしていただくとわかりやすいと思います。政治や憲法に関する「基礎知識」を身につけておくと、日々のニュースがより立体的に、自分の頭で読みこなせるようになります。 私もこの歴史的な1日を、大きな期待を持って見守りたいと思います。東洋経済オンライン
ついに憲法判断「再婚禁止期間」の争点とは?
井戸 まさえ:政治家、無戸籍児家族の会代表私が「733条問題」をわかりやすくお伝えできる理由
1項 妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定する
2項 「婚姻した日から200日を経過したのち、または婚姻の解消・取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したものと推定する
・再婚後、200日後に生まれた子どもは「現夫の子」と推定される「嫡出推定」って何?
誰の子でもない「空白の80日」ができてしまう