性暴力の実相・第4部(1)信じた教師が… 立場弱く拒絶できず
女子高校生のヨウコ(仮名)が性暴力の被害を受けたのは、九州の地方都市にある高校の寮。相手は、生徒を守るはずの男性教諭だった。
勉強に専念するために寮に入った。宿直当番で定期的に泊まり込む男性教諭は、悩みを相談するほどの仲。クラス担任でも、自分の部活動の指導者でもなかったが、スポーツで日焼けした壮年の男は面白く、友達のように話しやすかった。
ある晩、寮生の女子2人と宿直室に遊びに行ったときのこと。眠くなって友人と横になると、周りに分からないように教諭から体を触られた。どうしていいか分からず、寝たふりを続けた。
いったん部屋に戻ったものの、「なぜそんなことをしたのか」聞くため、1人で宿直室に戻った。信用していた教諭からいきなり抱きつかれ、キスされた。
「おまえのことが気になってたよ」「男はこうしたら喜ぶんだぞ」。体が硬直して払いのけられず、わいせつな行為をされた。
以来、毎週のように、深夜に部屋を訪ねられ、耳元でこう言われた。「宿直室に来なさい」
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ヨウコには彼氏がおり、教諭に対する恋愛感情はなかった。それでも被害を言い出せなかったという。
恋人に対する罪悪感から、呼び出しに応じなかったとき。「何で来なかったんだ」と翌朝とがめられると、反射的に「ごめんなさい」と謝っていた。「2人だけの秘密だぞ」。この言葉にも縛られた。
学校推薦での大学進学を目指しており、表沙汰になれば内申書に影響するのではないかという不安もあった。「(最初に)自分で宿直室まで行っているから『あんたも悪い』『誘ったんでしょ』と責められると思っていた。家族にも絶対に知られたくなかった」
性暴力の被害が続くうちに、頭がぼーっとし、吐き気が止まらなくなった。何度も授業中に保健室に運ばれたが、養護教諭には「具合が悪い」と言うのが精いっぱい。苦しみが澱(おり)のようにたまっていった。
教諭の要求はエスカレートし、「校舎内でもしような」などと言われるように。異変に気付いた寮の友人に諭され、「やめてください」と言えたのは、半年後のことだった。
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ヨウコは今、30代になった。「『おまえも興味あるだろう』って、被害者意識を持たせないように上手にやられたと思う」と当時を振り返る。先生と生徒という関係の中で、正常な判断ができなかったのかもしれない。「泣きながら無理やりされたわけじゃないから、先生が100パーセント悪いと思えなかった」。結局、被害は公にならなかった。
「幼少時から教師の言うことを聞くように刷り込まれた子どもたちは簡単に拒絶できない」。そう指摘するのは、教師による子どもへの性被害に詳しい中京大法科大学院の柳本祐加子教授(子どもの権利論)。「力関係を背景に、成長段階で芽生える自然な性への関心を利用されるケースも目立つ」と話す。
男性教諭は勤務を続け、管理職に就いている。西日本新聞の取材に対しその行為を認め、「申し訳ない」と話した。
◇ ◇
「性暴力の実相」第4部では、学校現場での被害の実態を追い、対策を考える。
■教師による性暴力の影響
学校での性暴力に詳しい大妻女子大人間生活文化研究所の徳永恭子研究員によると、教師からの性被害は児童生徒の心身を深く傷つけるだけでなく、大人への不信感を植え付ける。学校に対する安全意識が崩れて不登校になる場合も多い。「子どもたちはよく理解できないまま自分を責め、混乱の中で被害が長期化する傾向にある」という。2011年に東京都の教職員277人に行った調査では、「教え子とメールや携帯で性的な話題をすることはセクハラ」と回答したのは7割にとどまった。
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=2016/07/18付 西日本新聞朝刊=
性暴力の実相・第4部(2)カリスマ指導者が暴走
ただ強くなりたくて選んだ高校の柔道部は、暴力に満ちていた。20代になったミク(仮名)の母校は、中日本のある強豪校。全国大会常連まで押し上げた「カリスマ指導者」に、選手も保護者も異を唱えることはできなかった。部員への強制わいせつ事件で監督が逮捕されるまで-。
中学時代に県大会で活躍したミクはスポーツコースに進学、一軒家の寮に40代の監督と女子部員数人で暮らし始めた。「弱い選手でも良い成績に導く」と県外まで鳴り響いていた監督の暴力に、すぐに震え上がった。
エアコンの冷房と暖房を入れ間違えただけで、びんたが何発も飛ぶ。練習の内容が悪いと寮で正座させられ、殴られ蹴られる。目の周りを骨折した仲間もいたという。
「これが当たり前。耐えないと強くなれない」。監督の指導方法を保護者たちは信奉し、実績があるだけに学校側も黙認した。顔にあざができていたミクは、母親にこう言われた。「助けてあげられなくてごめんね…」
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暴力は徐々に性的な色を強めていった。
熊本県阿蘇市で行う夏合宿、バスの中で監督はある競技の有名女子チームの話を切り出した。「あいつらは寝るときも風呂に入るときも監督と一緒や。心が通っとるから強い」。そして「強くなりたいやつは俺と一緒に風呂に入れ」。
合宿中、連れて行かれた混浴温泉で先輩や後輩は次々に服を脱ぎ、全裸の監督の待つ湯船に向かった。どうしてもできなかったミクは、監督から「だからおまえは駄目なんだ。言うことが聞けないやつは出てけ」と怒鳴り上げられた。入浴した部員としなかった部員の間に溝ができ、横暴な行為に団結して抗議することもできなかった。
部員の中には、股関節のテーピングをするためとズボンを脱がされて下半身を触られたメンバーもいた。
密室の寮では、さらに異様なことが起きていた。監督に部屋に呼び出された女子部員2人は、「俺の前でどちらが恥じらわずに脱げるかやってみろ」と告げられた。レギュラーだった1人は部屋に残ったという。
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「生徒は『見捨てられるかも』『レギュラーになれないかも』という不安から先生に逆らえず、指導名目での体罰やセクハラが繰り返される」
運動競技に潜む性暴力について問題提起を続けているスポーツライターの山田ゆかりさんは、先生と生徒の主従関係が部活動ではより強く表れると指摘する。ある競技の中学生の県選抜合宿では指導者によるメンバーへの「全裸マッサージ」が慣例化していたといい、こうしたケースは氷山の一角という。「カリスマをつくり上げている学校や保護者、メディアにも責任がある」
ミクたちを苦しめた監督は数年前、別の女子部員の体を触ったとして逮捕され、有罪判決を受けた。「抵抗したら、もっとひどいことをされると思った」。裁判での被害者の証言に、ミクは共感し、震えた。
スポーツでのセクハラ調査 大阪府立大の熊安貴美江准教授(スポーツ社会学)らが2007~08年、国体強化選手など女性選手148人に男性指導者から受けたセクハラ行為などを聞いたところ、あいさつで触る62.8%▽マッサージで触る48.0%▽いやらしい発言44.6%▽2人きりの食事に誘う22.3%▽更衣室に入る9.5%▽合宿で同じ部屋に泊まる4.8%▽恋愛関係4.7%▽性的関係3.4%-だった。また、全国21の大学などの学生を対象にした調査では、スポーツと関わりが深い女子学生ほどセクハラ行為に比較的抵抗感が薄いという結果も明らかになっている。
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=2016/07/20付 西日本新聞朝刊=
性暴力の実相・第4部(3)居直りが生む二次被害
「教師によって娘がセクハラを受けた」と聞かされた40代のタカマツ夫妻(仮名)は二重、三重の苦しみに襲われた。
数年前の夏、九州の公立中学校に通っていた娘が急に変わった。明るい笑顔が自慢で、部活動に打ち込んでいた娘は伏し目がちになり、突然怒ったり、泣きだしたりするようになった。娘は理由を語らない。夫妻は「思春期だから」と互いを納得させていた。
2学期が始まると娘は学校に行かなくなった。タカマツ夫妻は、信頼していた部活動の50代の顧問に何度も相談した。「私に任せてください」という言葉を夫妻は頼もしく思っていた。
秋になり、自宅を訪ねてきた教頭と担任から、こう告げられた。「娘さんは顧問からわいせつ被害を受けてます」
夏休み前の部活動の帰りだった。顧問に「ドライブしよう」と誘われた娘は、車で人けのない場所に連れて行かれ、体を触られ、キスをされたという。娘が友人に打ち明けたことで発覚し、「顧問も『責任を取る』と言っています」と担任は告げた。
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「励ますために肩や太ももに触れたかもしれないが、わいせつ行為はしていない。辞めるつもりもない」
翌日、顧問に会いに行ったタカマツ夫妻は、その言葉に耳を疑った。謝罪の言葉もなかった。教育委員会の聞き取りにも、PTAの集まりでも顧問は「身の潔白」を主張。「行為を認めた」と話していた教頭や担任も口をつぐんだ。
生徒指導に熱心で、荒れていた学校を立て直したという顧問の実績も影響したのだろう。「あの先生に限ってそんなことするはずない」とタカマツ夫妻は周囲から何度も言われた。「ミニスカートで学校に来ていた」「男をたぶらかす子」。根も葉もない娘のうわさにも傷つけられた。
学校代わりに通わせていた塾にまで押し掛け「(うそを)白状しなさい」と娘に詰め寄る保護者もいたという。無言電話も続いた。娘は顧問が怖くて学校に行けなくなりリストカットを繰り返した。教育委員会に訴えても「顧問にも人権がある。証拠もないのに処分できない」。顧問は自宅謹慎にすらならなかった。
■ ■
元中学教諭で、1200件を超す相談を受けてきたNPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」の亀井明子代表は「あってはならないことだから、学校も保護者も『なかった』方向に傾いていく。いじめが隠されるのと同じ構図」と指摘する。タカマツ夫妻と娘が直面したような二次被害は珍しくないという。
うそつき呼ばわりされた娘のために、夫妻は民事訴訟で闘い、そして裁判で顧問のわいせつ行為はすべて認定された。勝訴の報に喜んだとき、顧問は既に定年退職していた。
「被害に遭った子どもが守られず、居直った加害者が処罰も受けないなんておかしすぎる」。教育現場への不信感が夫妻には刻まれている。
わいせつ行為の調査 文部科学省によると、重大ないじめ案件については「第三者委員会」の設置が法律で義務付けられているが、生徒に対する教職員のわいせつ行為などについて定めた法律はなく、各自治体の教育委員会や学校の判断で調査が行われている。学校内で起きる教職員の犯罪を研究してきた吉田卓司藍野大准教授(教職教育)は「身内の調査、判断には限界がある。性被害の特質を理解した専門家による事実確認や被害者の心のケアなどに対応できる第三者機関の設置が必要だ」と指摘する。
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=2016/07/21付 西日本新聞朝刊=
性暴力の実相・第4部(4)見過ごされた問題行動
「前も教え子とできちゃったんですよねぇ。われわれも扱いづらくて…」
中学生の娘ミサ(仮名)が教師から性被害を受けたと知り、40代の母親トモコ(同)が学校に訴えると、校長はこんな言葉を漏らした。あぜんとして言葉が出てこなかった。
数年前のこと。中日本に住むミサが所属していた中学校美術部の50代顧問は、お気に入りの生徒を自宅に呼んで個人レッスンをしていた。「芸大に行かせてやる」と誘われ、通い始めたミサ。父親以上に年が離れた相手に警戒心はまったくなかった。2、3回通ったころ、顧問から数十分間、無理やりキスされた。
「もっとひどいことをされたはず」とトモコは思うが、ミサはそれ以上話そうとしない。別の個人レッスン生も同時期、急に不登校になった。学校の対応に不信感を抱き、知り合いを介して教育委員会関係者の元へ駆け込むと、返ってきたのは「あの先生、そういう癖があるんです。今までもずーっとですよ」。
結局、顧問は複数の生徒へのわいせつ行為を認め、懲戒免職になった。「学校や教委は問題を把握していたのに見て見ぬふりをしていた。泣き寝入りしたら間違いなく被害は繰り返されていた」とトモコは憤る。
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問題行動を起こした教師への対応はどうなっているのか。
九州の小学校で数年前、女児の胸を触った教諭が、子どもたちから「セクハラ」と訴えられたことがあった。「Tシャツを指さしたら当たっただけ」と釈明したため、校長の判断で情報が教師間で共有されることはなかったという。
当時、この学校で教壇に立っていた女性は「被害児童の立場で考えたり、接し方を議論したりする機会もなかった」と振り返る。同僚から漏れ伝わってきたのは数カ月後のこと。直後、この教師は転勤になった。
福岡、佐賀、熊本などの県教委によると、懲戒処分を受けた事実は人事記録として文書で残る。だが、その具体的な内容は校長同士の口頭の引き継ぎに委ねられているという。トラブルを起こしても、処分されなければ記録にも残らない。
九州のある自治体で教育委員を務めるミドリ(同)は異動時の引き継ぎに疑問を抱き、不祥事の内容をすべて文書にして学校間で渡すよう、教委の会合で提案した。「教員の再起を妨げるようなことはすべきじゃない」と一蹴された。
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教師によるわいせつ行為が相次いだ長野県教委は2013年、不祥事の引き継ぎを文書で行うなど46項目の再発防止策をまとめた。非公表だった当事者への指導状況や懲戒に至らない問題行動も文書で残し、学校や県、市町村教委で共有するようになった。教職員への研修や啓発も徹底させているという。「それでも不祥事はゼロにならない」と担当者は漏らす。
九州の実態を知るミドリは、自らの町で被害が起きないか、不安を募らせる。「起こる前提で対策を取らないと、子どもたちが傷つけられてからでは遅すぎる」
長野県の取り組み 不祥事が相次いだ長野県教委は2013年、46項目からなる「信州教育の信頼回復に向けた行動計画」を策定した。問題を起こした教諭の情報を文書で引き継ぐようにしたほか、不祥事に気付いた教諭が相談、通報しやすい体制を構築する▽管理職の選任要件に組織管理能力を加える▽感情のコントロールの仕方など専門的な研修を実施する-ことなどを盛り込んだ。弁護士や臨床心理士など外部の専門家から最低年1回、意見をもらいながら、不祥事防止に努めているという。
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=2016/07/22付 西日本新聞朝刊=
性暴力の実相・第4部(5)やまぬ不祥事 現場萎縮
夕日が差し込む高校の校舎に、管楽器の音色が響いていた。姿を現した管理職の男性教諭は帰宅する女子生徒に「さようなら」と張りのある声を掛け、記者を応接室に招き入れた。若いころ、教え子に性暴力を振るったことがありますね-。教諭は組んだ両手を震わせて答えた。「その事実はございます」
約20年前。教諭は、この高校の寮で当直勤務に入ると、女子生徒を部屋に呼び出してわいせつ行為をしていた。連載の1回目に登場した教諭だ。「当時は自暴自棄になっていた」。教諭は慎重に言葉をつないだ。家庭のトラブルや職場の上司によるパワハラ。追い詰められてどうでもよくなり、身近にいた生徒に手を出したという。
「先生だから抵抗できなかった」と被害者は話していた。教諭は、生徒との間にある大きな力の差に考えが至らず、拒絶しないから嫌がってないと思っていたという。「(自分に)ブレーキをかけられなかった」
問題は表面化することなく、管理職まで上ってきた。「ずっと罪悪感にさいなまれてきた」と言ったが、話を聞くうちに被害者の数は1人から数人に増えた。
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教え子と恋愛関係にあると思い込むなどして、教師らが簡単に一線を越えるケースもある。
北部九州にある塾の30代講師は数年前、教え子の女子中学生にわいせつ行為をした。「学校になじめない」と悩みを打ち明けられ、相談に乗るうちに勘違いした。空き教室に連れて行って「好きなんだろ?」「俺はもてるからなぁ」と迫り、体を触るなどしたという。「親に内緒でデートしよう」という内容のメールも送り付けた。気付いた女子中学生の両親が弁護士に助けを求めるまで、被害は続いた。
福岡県の小学校で校長まで務めた後、不登校の子どもが通う「相談室」の室長をしていた男(66)は昨年末、通っていた少女にわいせつ行為をした罪で有罪になった。男は捜査の過程で「『頑張れよ』と励ます思いからだった」と話した。教師の性犯罪に詳しい東敦子弁護士(北九州市)はため息をつく。「先生は、従順な子なら、目だけで意のままに動かせる。それだけの力を持っていることを認識できない人がいることが怖い」
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繰り返される不祥事を受け、児童生徒との誤解されるような接触は避けようと、現場は細心の注意を払っている。
福岡市立小学校の30代の男性教諭は、教室で女子児童と2人きりになることにも気を使う。「水泳の授業で泳ぎ方を教える際に手を握るのも心配。スキンシップで子どもの頭をなでたり、肩に触れたりすることにも躊躇(ちゅうちょ)する」。40代の女性教諭も、児童の体に触れる時は「ごみが付いとるけん、今から取るからね」と理由を必ず伝えるようにしているという。
可能性や能力を引き出そうと、多くの教師は熱意を持って子どもたちと向き合う。そんな教育現場が、一部の教師の行為によって窮屈になっていく。
法制審議会の議論 性犯罪の厳罰化などを議論する法制審議会(法相の諮問機関)の部会は6月、親などの「監護者」が影響力を利用して18歳未満の者にわいせつ行為などをした場合、暴行や脅迫がなくても罰することができる規定を新設するなどした刑法改正案の要綱をまとめた。性暴力の被害者らでつくる市民団体は、教師やコーチなど指導的立場にある者からの子どもへの性暴力についても、同様の規定を設けるよう要請していたが、反対意見が多く、盛り込まれなかった。要綱は秋にも法相に答申される。
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=2016/07/23付 西日本新聞朝刊=
性暴力の実相・第4部(6)子ども守る意識高めて
「ままごと、お医者さんごっこの延長みたいに楽しいひとときを過ごしたかった。私にとって、『汚れない天使との遊び』でした」
妻が経営する福岡県内の保育所で、1~6歳の女児14人にわいせつ行為を繰り返した男(67)。薄くなった白髪頭に眼鏡を掛けた男は、収監中の拘置所から記者に出した手紙で、こんな弁解を繰り返した。
手紙には「犯罪行為はしていないつもり」という一文もあった。この男にとっては見知らぬ女性を襲って乱暴することが性犯罪だといい「私は嫌がる子と無理に遊んだ事は一度もない」と何度も強調していた。
小中学生に性的関心を抱くようになったのは、40歳の頃。その後、自らの建築関係の事業がうまくいかず、精神的にくたびれて「残ったのはいっこうに弱まらなかった性欲、少女願望でした」。犯行期間は6年以上。男は今年3月、懲役11年の実刑判決を受け、確定した。
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「第2次性徴が始まる小学校高学年以上の子どもだけが性被害に遭うというのは間違い」。子どもへの暴力防止プログラムに取り組むNPO法人「にじいろCAP」(佐賀県鳥栖市)の重永侑紀代表=写真=は言う。
保育園や小学校低学年でも性被害に遭うという社会的認識が広がっておらず、「加害者が教育現場に入り込んだ時、子どもを守る仕組みがない」という。
重永さんたちは佐賀市や福岡市中央区、福岡県大野城市など行政から委託を受け、保育園や学校などで年間450回以上の予防教育の研修を行っている。そして、こう訴える。
「みんなには安心して、自由に生きる『権利』がある。権利を奪われるような怖いことをされたら、口止めされても誰かにしゃべっていいんだよ」
ある研修の後、小学校高学年の女児が「サッカークラブのコーチからお尻を触られてる」と打ち明けてきた。小学4年の男児が担任の女性教諭からわいせつ行為をされていると訴えてきたこともある。
「先生や保護者への予防教育も大切。大人の意識を変えないと、子どもが被害を話してくれた時、隠蔽(いんぺい)や二次被害は防げない」と重永さんは力を込める。
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子どもたちが被害を訴えやすいようにと、千葉県教育委員会は2004年度から、高校生を対象にセクハラのアンケートを実施。対象を順次拡大し、13年度からは小中高の児童生徒約47万人などに行っており、結果は教職員の指導や研修に生かしている。
これまでに、生徒からの訴えがきっかけになって教職員を懲戒処分にした事例は2件しかなく、把握できなかったスクールセクハラもある。それでも担当者は意義を強調する。「毎年1回、継続的に行うことで教職員や生徒の意識も高まり、抑止につながる」
教える者と教わる者-。力関係や信頼関係を背景に、教育現場で性暴力は続いてきた。いじめや体罰と同じように、社会が目を凝らさなければ、子どもたちは救われない。
千葉県教委の実態調査 千葉県教育委員会が昨年度、千葉市を除く公立小中高、特別支援学校の児童・生徒約47万人を対象に行ったアンケートでは、教師からセクハラを受けたと回答したのは計422人。このうち「必要以上に体に触られた」は小学生16人、中学生22人、高校生59人、特別支援学校生2人だった。学校ごとに調査を行い、生徒は任意で名前を書く方式をとっている。無記名であっても、県教委は学校長に対応を求める。神奈川県教委も高校生など約13万人を対象に、同様の調査を行っている。
=おわり
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=2016/07/24付 西日本新聞朝刊=
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性暴力@性暴力の実相04
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