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性暴力@性暴力の実相 03

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性暴力の実相・第3部(1)セクハラ「当たり前」


 始まりは、ちょっとしたやりとりだった。大手スポーツ用品メーカーに入った20代のユウコさん=仮名=が、営業成績に関する個人面談を受けていたときのこと。直属の上司である課長は、仕事の話をやめてこう切り出してきた。「今度食事に行こう」。その場はやんわりと断った。

 それからユウコさんの携帯に次々に誘いのメールが届くようになる。関西にある花形の営業部。ここで頑張るという決意や課長の押しの強さが影響したのかもしれない。あきらめて食事に行くと、今度は職場の上下関係を使った脅しのような言葉が待っていた。

 「断ったら、おまえの評価を下げようと思っていた」。居酒屋で席に腰掛けるなりの第一声。酒をあおりながら、課長の暴言は止まらなかった。

 「次はデートだ。当然、ホテルに行くこともありえるからな」「長くこの会社でやっていくには、そういうのも大事だぞ」「耳にピアスを開けてるけど、胸にもあるのか。今度倉庫で見せてくれ」

    ■    ■

 1週間後、背中まであった髪を約30センチ切った。肌の露出が少ない服を着るようになり、スカートもやめた。化粧もしなくなった。仕事相手ではなく、性的な対象として見られていたことがショックだった。

 守ってくれるはずの会社のセクハラ対応窓口が事態を悪化させる。相談すると、すぐに職場に知れ渡った。部長はユウコさんを呼び出して「課長がイケメンだったら、(発言は)OKだったのか」。別の課の上司からは「俺の下半身はでかいぞ。これセクハラか?」と嫌みを言われた。女性の先輩からも「我慢して当たり前」と突き放された。

 冗談を聞き流せないつまらない女-。そう言われているようで涙が止まらず、眠れなくなった。「就活を頑張って入った大企業だから」と退職は踏みとどまったが、その冬の慰安旅行で再び打ちのめされた。

    ■    ■

 パネルの穴から出された男性社員の水着の膨らみを触って誰かを当てる「股間当てゲーム」、パネルから出た女性の足を男性が触って推理する「大根足ゲーム」、男女がペアになって行う「二人羽織ゲーム」…。

 宴会での“余興”に参加させられたユウコさんを、同僚は笑って見ていたという。このときの写真を記者に見せ、「セクハラを訴えた私がいても変わらない。駄目だと思った」という。結局1年で会社を去った。

 あれから数年。最近、自分のことについて「頭のおかしい新人がセクハラと騒いですぐに辞めた」と社内でうわさされていると、元同僚から聞いた。自分たちを正当化するかつての勤務先の人たちに、嫌悪感は抱かなかったという。

 「私があきらめずに会社と闘っていれば、同僚や後輩の職場環境は良い方向に変わっていたかもしれない」。後悔が頭をよぎる。一方で、現実にはそんな選択肢はなかったとも思う。

    §    §

 組織の中で性暴力が起こった時、弱い立場にある人ははっきり「ノー」と意思表示できず、泣き寝入りを強いられるケースは多い。「性暴力の実相」第3部では、企業内などでのセクシュアルハラスメントを描く。

     ◇      ◇

 ■企業の6割 窓口未設置

 改正男女雇用機会均等法で設置が義務付けられている「相談・苦情対応の窓口」を置いている企業は36・5%にとどまっていることが、労働政策研究・研修機構の調査で分かった。

 無作為抽出した従業員10人以上の企業6500社に調査票を送り、1711社とその女性従業員4654人から回答を得た。インターネットでも5千人に尋ねた。回答者は25~44歳の女性。調査期間は昨年9、10月。

 それによると、セクハラ相談の窓口を設置している企業は全体の36・5%。専門の担当者を配置しているのは12・9%にとどまった。同法は、窓口設置の義務に違反し、行政指導などに従わない場合、企業名を公表できると規定するが、実際に公表された例はないという。

 セクハラを受けた女性が窓口や担当者、上司に相談したケース(494件)のうち、「セクハラ行為者に注意が行われた」のは36・4%、「事実関係の確認が行われた」も29・1%で、「特段の対応は行われなかった」は22・7%だった。

 相談の結果、女性が「上司や同僚から嫌がらせを受けた」も5・7%あり、「解雇や退職強要など不利益を受けた」という深刻な二次被害も3・6%あったという。

◆セクシュアルハラスメント 仕事上の地位や権限を使って食事やデートに誘うなど性的な要求をし、言うことを聞かないと不利益を被ると圧力をかける「対価型」と、性的な言動で職場環境に悪影響を与える「環境型」のセクハラがある。2014年度、労働局に寄せられた男女雇用機会均等法に関する相談2万4893件のうち、45%にあたる1万1289件がセクハラに関する内容だった。

=2016/03/16付 西日本新聞朝刊=






性暴力の実相・第3部(2)「組織」相手、募る疲弊


 北部九州にある病院の職員だった20代のシホさん=仮名=は昨年、勤務先に何度もセクハラ被害を訴えた。その声は、組織の中でかき消されたという。「だれも聞いてくれなかった」。悔し涙がこみ上げる。

 相手は院長だった。あいさつする程度だったのに、携帯に電話をかけてきて「おまえとは相性がいい」と食事に誘ってきた。職員を怒鳴り散らすワンマン。断るのが怖くて1日に何度も鳴る携帯に触れなくなった。相談した上司は「セクハラは勘違いじゃないの?」。取り合ってくれず、仕事に行けなくなって退職した。

 離職票の理由をめぐり、セクハラを認めるよう求めると、再び組織に拒まれた。「院長は(シホさんから)男を紹介してと頼まれたので電話したと言っている」「セクハラを立証できる物はあるのか」

 実はシホさんは、同じような電話に悩まされたと、同僚から打ち明けられたことがあった。「食事に付き合うとホテルに誘われ、断ると現金を渡された」。セクハラは一部の職員には認識されていたという。

 職を失うのが怖くて声を上げられず、言い出せば組織として無視する。そんな構図がまかり通っていると思う。シホさんは心因性の発疹が全身にでき、婦人科系の病気も発症した。

    ■    ■

 セクハラを認めない会社を相手に裁判になるケースもある。

 高級車の販売店で派遣社員として働いていた20代のマキさん=仮名=は歓迎会でカラオケを歌っていたとき、酔った上司に太ももあたりを持って抱き上げられた。スカートがずり上がり、席に戻ると同僚にこう言われたという。「下着が丸見えだったよ」

 この店で接客技術を磨き、航空会社の客室乗務員になる夢があった。飲み会で手を握られても笑って受け流せた。「抱えられただけなら我慢できたかもしれない」。みんなに下着を見られたと思うと糸が切れた。

 吐き気や頭痛が止まらず、仕事に行けなくなった。弁護士を通して会社と話し合いを持ったが、セクハラに関して意見は合わず、販売店や上司に慰謝料を求めて提訴した。

    ■    ■

 販売店は調査会社に依頼して、社員から聞き取りを行った。「丸見え」と言ったという同僚は、調査会社には「見えてない」と証言。報告書は、マキさんの訴えを否定する内容だった。

 裁判所は昨年末、抱き上げた行為をセクハラと認め、上司や会社に約30万円の賠償を命じた。ただ、すべてが認められたわけではない。下着に関しては、同僚の証言は信用できるとして、マキさんの訴えを退けた。

 「組織」対「個人」の争いになることが多いセクハラ。組織を相手に疲弊したマキさんには、夢に向かう気力がまだ戻らない。


 ◆企業のセクハラ防止義務 男女雇用機会均等法は、企業にセクハラの防止措置を義務付けている。厚生労働大臣指針は事業主への10の措置を示しており、(1)セクハラへの対応方針の明確化と周知、啓発(2)相談窓口などの体制整備(3)発覚後の迅速な対応(4)相談者の不利益な取り扱い禁止-など。これらの措置を取らなければ、厚生労働省や各都道府県労働局が指導、勧告を行い、是正がなければ企業名が公表されることもある。

=2016/03/17付 西日本新聞朝刊=








性暴力の実相・第3部(3)「恋愛」と思い込もうと


 脳性まひで手足に障害がある40代のアケミさん=仮名=は10年ほど前、契約社員として働いていた関西の鉄道会社の上司と関係を持った。それからの約4カ月間、何通も親密なメールをやりとりし、一緒に旅行にも行った。双方独身。周囲には交際関係にあると映っただろう。

 ただ、アケミさんは違ったと話す。当時、小学生の娘2人を抱えるシングルマザー。相手は、100社近く面接に落ちた末に採用された会社の上司。「子どものためにもしがみつくしかない」と断れず、恋愛関係と思い込もうとしたという。

 そもそも、最初の関係が暴力的だった。冬の社員旅行の帰り。酒を飲まされて無理やりホテルに連れていかれ、押し倒された。障害のために自力で起き上がれず暴行された。乱暴後、「なかったことにせぇや。契約が更新されなくなるぞ」と告げられた。

    ■    ■

 被害者心理に詳しいカウンセラーの井上摩耶子さん(京都)は「長期間、立場を利用した性暴力を受けていると、楽になりたくて『恋愛関係』と思うことは少なくない」と言う。

 上司を慕うメールを送っていた時期、アケミさんは日記を付けていた。

 《(上司の)昇進テスト。「落ちろ」と思うが、メールでは違うことを送っている。私は(上司の)味方であり続けなければ自分を守れない…》

 《私はまるで玩具みたい…。人形のようにただ操られている方が…。いつまでこんな日々が続くのか》

 精神的に不安定になりリストカットをすると、上司からは「好きだ」「愛している」とメールが届いた。返信したのは「私も」のメール。日記にはこんな記述がある。

 《いくら体が不自由でも普通の女性扱いしてほしい。好きだ、大事だと言われると、そこに救いがあると思えてくる》

    ■    ■

 アケミさんは雇用契約の更新を機に変わった。失職の怖さがなくなったことで、2人の関係の異常さに気付いたといい、会社に被害を訴えた。だが「痴情のもつれ」と相手にされず、警察でも取り合ってもらえなかった。

 会社や上司の責任を問う民事訴訟でも、メールのやりとりから「交際」と判断され、性暴力やセクハラは認められなかった。二審は、最初の関係について「(上司が)性欲のはけ口として行為に及んだ」と同意がなかったことを認定したが、「その後は恋愛関係にあった」と判断し、一部損害賠償の支払いを命じて判決は確定した。アケミさんは結局、仕事を失った。

 恋愛か、迎合から生まれる恋愛か。立場が弱くてセクハラから逃れられない女性の心理は、社会にはまだ理解されないと、アケミさんは悔しさを募らせる。「暴行された被害者が、相手と純粋に恋愛関係になることがありえるでしょうか」

◆セクハラと労災 厚生労働省は2011年、セクハラによって引き起こされる精神障害を労災認定する基準について、全国の労働局に通達を出した。その中で、セクハラ被害者には、勤務を継続したいなどの心理から加害者に迎合するメールを送ったり、誘いを受け入れたりする特徴があると明示。被害者側がこうした行為をしていても、セクハラを否定する理由にはならないとしている。

=2016/03/18付 西日本新聞朝刊=







性暴力の実相・第3部(4)無自覚な男性責任転嫁


 東京の日本料理店で研修に入って3日目。板前のリョウコさん=仮名=は、並んで客を見送った後、店主の男性から突然、胸を触られた。「ありえないです…」。そんな言葉を店主は気にも留めず、さらにリョウコさんに、体のことなどを聞いてきた。

 だが、強く抵抗できない理由があった。自らの売り込みもあって、福岡に出す新店舗の店長候補としてスカウトされ、店主のもとで研さんを積んでいた。料理やもてなしを教わる身。競争が激しい和食の世界で、20代の若さでつかんだ異例のチャンスだった。

 セクハラ行為はエスカレートした。調理場の陰で正面から抱きしめられ、額にキスされた。首筋に顔を近づけられ「良いにおいがするな」。ひざまくらを強要されたり、尻をわしづかみにされたり…。

 2週間で神経性胃炎を患い、夢を諦めた。セクハラを知った友人が問い詰めると、店主はこう釈明した。

 「ちょっかいだ。冗談みたいなもの」「(客から飲まされた酒で)酔って、ノリでやっただけ」

    ■    ■

 東京都職員としてセクハラ相談に携わり、退職後は「職場のハラスメント研究所」(東京)の代表理事を務める金子雅臣さん(72)は「加害者には立場や力関係の違いを自覚できていない人が多い」と指摘する。

 リョウコさんの場合、研修中、店主は「胸を触るくらい普通」「別の女性スタッフは抵抗なんてしなかった」と言ってはばからなかったという。

 「なぜ自分がセクハラをするのか、加害者は深く考えようとせず、相手に責任を転嫁する傾向もある」と金子さん。リョウコさんが弁護士を通じて慰謝料を求めた際、店主は「許してくれていたはずだ」と言い、最後は「やっていない」と態度を翻した。

 新規店は一昨年、福岡にオープンし、別の女性が店長に就いている。いまもセクハラがあっているかもしれないと、リョウコさんは思う。

    ■    ■

 女性から受け取ったメールを男性側が勘違いしてセクハラが始まるケースも少なくない-。九州にある労働局のセクハラ相談窓口の担当者は分析する。

 ある女性は、仕事の打ち上げで上司に食事をごちそうになり、メールでお礼を伝えると誘いのメールが何通も届くようになった。「社交辞令にしか受け取れないメールなのに、絵文字などを拡大解釈して『好意』にとらえていた」と担当者は嘆息する。

 男性側の無理解や勘違いなどから、なくならないセクハラ。大阪大の牟田和恵教授は「性暴力だ」と断言する。「受ける側に問題があるのではなく、仕掛ける側の問題」。多くの人にとって、人ごとではない。

◆セクハラ処分の訴訟 セクハラ行為で懲戒処分を受けた加害者が、処分の無効を求めて企業などを提訴する事例が近年目立っている。最近では、大阪市の水族館の男性管理職2人が減給などの処分の取り消しなどを求めた裁判で、最高裁が2015年、「処分は妥当」との判断を示した。セクハラ問題に詳しい大橋さゆり弁護士(大阪)は「コンプライアンス(法令順守)の観点から、企業サイドも(処分を取り消せず)裁判で争う時代になった」と指摘する。

=2016/03/19付 西日本新聞朝刊=


性暴力の実相・第3部(5)セクハラ「職」「心」失う

読者から届いたメールやファクス
 「私も被害を受けています」「これが今の実態です」-。連載「性暴力の実相」第3部では、読者からメールやファクスでさまざまな声が寄せられた。立場の弱さから我慢を強いられる悔しさや、組織の対応への疑問などがつづられており、セクハラ被害の深刻さをうかがわせた。

 「相手と笑顔で話すことしかできない自分、強く言えない自分が嫌になる。この連載で一人でも多く気付いてください。私たちはつらいんです」

 20歳も年が離れた上司から、飲み会の帰りにいきなりキスをされたという女性からのメール。信頼していただけに「ショックでこのメールでも泣きそう」と記した。職場の雰囲気を悪くしないよう、誰にも相談できず、必死に笑顔をつくって耐えているという。

 「たかがキスではありません。上司にはすごく気を使っているんです。いつも笑顔だからって、何でもしていいなんて思わないでください」

 3年半にわたりセクハラを受け続けたという元大学職員の女性からもメールが届いた。加害者は大学から懲戒処分を受け、表向きには解決したように見えるが、女性は「違う」と訴える。「いまだに大学ではセクハラへの注意や研修はあっていない。加害者は出勤停止中で私は退職したので、丸く収まったと思われているのでしょう」

 セクハラを大学側に訴えないよう圧力をかけたり、見て見ぬふりをしたりする同僚たちにも苦しめられたという。心身を病み、10年近く勤めた職場を辞めざるを得なかった無念さがにじんでいた。

 男性従業員から尻を触られたり、手を握られたりしたという飲食店勤務の20代女性。上司に注意してもらうと、男性従業員は「コミュニケーションのつもりだった」と弁解したという。「男性の感覚は私には理解できない」。40代の男性からは「日本の企業組織なら(セクハラは)当たり前だよなと思った」という意見も寄せられた。

 「通院費や薬代などの金銭的損害を被らないといけないことにも怒りを感じる」と記したのは、セクハラ被害で精神的ダメージを受けた福岡県の公務員女性。

 大分県日田市の女性は「大学生の就活が厳しいなか、せっかく得た職場をセクハラで去らねばならないとは、なんとつらいことか」と連載の感想を書き、こうつづった。「就活間近の娘がいます。この記事を参考に、何の後ろ盾もなくスキルもない平凡な娘であっても、人が人として扱われない時にはきちんと反論するよう励まそうと思います」 =おわり

◆6割強が泣き寝入り 労働政策研究・研修機構が昨年9、10月に企業6500社にアンケートを送るなどして行った調査によると、職場でセクハラを経験したことがある女性は28.7%。このうちの63.4%が「我慢し、特に何もしなかった」と泣き寝入りしていた。「加害者に抗議した」は10.2%、「上司に相談した」が10.4%。「抗議」「相談」した人の割合は、正社員、契約社員に比べ、パートタイマーや派遣労働者の方が低かった。

=2016/03/20付 西日本新聞朝刊=


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